研究課題/領域番号 |
23K12656
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分08020:社会福祉学関連
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
永野 叙子 筑波大学, 人間系, 研究員 (30853204)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2025年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
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キーワード | 成年後見制度 / 死後事務 / 市民後見人 / 市民後見 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は, 市民後見人の死後事務に関する支援ニーズと課題を探索的に検討し, 死後事務を円滑に進めるための支援ガイドの開発に資する基礎的見地を得る. 具体的には, ①死後事務の法的枠組みの現状と課題を後見人が抱える困難に着目して明らかにする. ②死後事務に関する支援ニーズと課題を解明するため, 市民後見人と後見監督人に対する面接調査を実施する. ③調査で明らかになった支援ニーズと課題を死後事務の法的枠組みに沿って分類し, 市民後見人と後見監督人とのフォーカスグループインタビューを経て死後事務支援ガイドを開発する.その上で, 専門職会議(弁護士・司法書士・社会福祉士で構成)にて検証する.
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研究実績の概要 |
2023年度は, 死後事務に関する法的枠組みの現状と課題を, 後見人が抱える困難に着目して明らかにするため, 次の3点について研究を進めた. 具体的には,(1) 国内での政府資料及び専門職団体(弁護士・司法書士・社会福祉士)による死後事務の関連資料を収集し, 課題整理を行った. その結果, 円滑化法(民法改正・平成28年10月13日施行)によって, 後見人には一定の範囲で死後事務を行うことが出来るとなった. しかし, 保佐・補助は,これまで通り応急処分義務(民874による民654準用), あるいは事務管理(民697)の法理を準用し執り行っているため, 第三者後見人等が社会通念上, やむを得ず行う「死後事務(遺体の引き取り, 居室の明け渡し, 葬儀の執行, 相続人の確定など)」を拒むことが困難であることが確認された. 他国との比較のため, (2)成年後見制度を導入している「ドイツ, フランス, アメリカ」の法的枠組みや実情について先行研究を用いて確認した結果, やむを得ず行う「死後事務」にまで拡張して, 後見人等が執り行う状況は見られなかった. これらのことから, わが国では, 被後見人等の遺族や相続人ではない第三者が, 「身寄りのない人」の後見人等となったことで, 死後事務に困難さが生じたのではないかと推察された. さらに(3)受任経験豊富な専門職後見人(弁護士, 司法書士, 社会福祉士)に死後事務の実践事例をヒアリングした結果, 死後事務は, 本来相続人が行うべきものあり, 後見人等が死後事務を行うときにはそれをする権限があるか, 要件を満たしているのか, 必要な範囲を超えていないかなど, 相当に慎重な態度で執務を行う必要があるとの見解が示された. またそれ故に, 死後事務は個別性の高い対応が求められるといった現状を確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
政府資料及び専門職団体の関連資料から, 被後見人等の死亡により後見等は絶対終了するため, 後見人等には「終了事務」以外に死後事務を行う義務や権限がないとする記載を改めて確認した. また, 「本人に身寄りがない時, または親族がいたとしても疎遠で, 死後事務を行う人がいないような場合」に, 第三者後見人等が「やむを得ず行う死後事務」を周囲から期待され, 社会通念上これを拒むことが困難である報告も多々見られた. 「死後事務」に関する法的根拠は, 応急処分義務(民874による民654準用), あるいは事務管理(民697)の法理が準用されてきた. 円滑化法(平成28年10月13日施行・民法改正)によって後見人には一定の範囲で死後事務を行うことが出来るとされたが, 保佐・補助は,これまで通り, 事務管理または応急処分義務を根拠として死後事務を行うほかなく, しかも死後事務委任契約も存在しない点に留意を要する. 他国の状況は, 「やむを得ず行う死後事務」まで拡張して後見人等が死後事務を行う動きはなく(ドイツ), 死後事務は相続法の範疇であり後見人等が管理していた財産は, 相続人か, 公証人に速やかに引き継ぐ(フランス), 制限的でない方法として信託や, リビングウイル, 持続的代理権等が発達(アメリカ)している. 他国との法的枠組みの差異を確認した結果, わが国の死後事務の問題は, 後見人等が被後見人等の遺族や相続人ではなく, 第三者が「身寄りのない人」の後見人等となったことから生じた困難や課題であることが指摘できる. また, 専門職後見人(弁護士, 司法書士, 社会福祉士)の死後事務のヒアリングから, 相続法との抵触, 急迫の事情の判断の困難さ, 応急処分を行う場合の後見人の財産管理権の法的性質など, 多くの問題を有する現状が確認され, 個別対応が求められる実情を把握した.
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今後の研究の推進方策 |
(1)2024年度は, 死後事務に関する支援ニーズと課題を解明するため, 市民後見人と実施機関の後見監督人に対して面接調査を実施する. 調査対象は, 市民後見人の受任件数が最も多い都道府県で活動し, 死後事務経験が複数件以上ある市民後見人, ならびに市民後見人の育成・支援経験が豊富な実施機関で市民後見人の支援・監督する後見監督人を予定している. 市民後見人への聴取内容は, 主に困難があった死後事務の内容とその理由, 身寄りのない人の死後事務において市民後見人が必要とする支援等とする. 後見監督人への聴取内容は, 主に法的な専門性を要した死後事務支援の内容とその理由, 身寄りのない人の死後事務おいて後見監督人が必要とする支援等とする.
(2) 2025年度は, 死後事務支援ガイドの開発と, 実用化に向けて死後事務支援ガイドを検証する. 支援ガイドの開発では, 市民後見人等から聴収した支援ニーズと課題を死後事務の法的枠組みに沿って分類し, 死後事務支援ガイド(案)を作成する. 本(案)について実施機関で活動する市民後見人連絡会の経験豊富な市民後見人(複数名)と, 後見監督の経験が10年以上ある実施機関の後見監督人(複数名)とのフォーカスグループインタビュー(以下, FGI)を実施し内容を確認し検討を行う. 支援ガイドの検証では, 弁護士・司法書士・社会福祉士に対してエキスパートレビューを依頼し内容を精査する. 完成した死後事務支援ガイドは, 所属機関で公開報告会を実施し, 参加者による評価を行う.
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