研究課題/領域番号 |
23K12720
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分09010:教育学関連
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研究機関 | 開智国際大学 |
研究代表者 |
西山 渓 開智国際大学, 教育学部, 講師 (00876211)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,510千円 (直接経費: 2,700千円、間接経費: 810千円)
2025年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
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キーワード | ファシリテーション / 民主主義教育 / 熟議 / 認識的不正義 / 道徳的責任 / 対立 / アクションリサーチ / 教師 / 熟議型政治教育 |
研究開始時の研究の概要 |
今日の教育現場では、教師のあり方は「主体的で対話的で深い学び」を促すファシリテーターであると認識され、そうしたファシリテーター個人の教育技術研鑽のあり方が議論されてきた。しかし、実際に行われている授業では、特定のアイデンティティへの偏見に基づく排除など、ファシリテーター個人の能力や技術では対処できないような、構造的な不正義が現れることが指摘されている。本研究では個人の研鑽に先立って存在するファシリテーターの道徳的責任の範囲を理論的・経験的に再検討しながら、構造的不正義に対するファシリテーターのあり方を明らかにし、今後の教育におけるファシリテータ像を精査していくことを目指す。
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研究実績の概要 |
本研究では、2023年度に次の3点について研究を進めてきた。①ファシリテーター個人では対処し得ないような構造的不正義の一例としての、教室における認識的不正義についての理論研究、②熟議型政治教育の可能性と課題についての情報収集(特にファシリテーターの観点から)、③学校現場での予備調査。 ①に関しては、関連する論者の資料を収集し精読(e.g. Miranda Fricker, Jose Medina等)したほか、その成果をキャンベラ大学熟議民主主義とグローバルガヴァナンス研究センターのセミナー等で報告を行った。また、この成果の一部は書籍(分担執筆)として出版をした。また、当該トピックについての論考を、国際紙に提出した(査読中)。 ②に関しては、国内外の民主主義教育の現状についてのレビューを行い、ファシリテーターの観点からの研究が過度に少ないことを明らかにした。そして自身がオーストラリアで収集した実践データをもとに、オーストラリア・フランスの研究者とともに、ファシリテーターの観点から民主主義を問い直す国際共著論文を執筆した。 ③に関しては、複数の学校(私立小学校1校、私立中学校1校、公立高校1校、私立高校1校)で教員の協力のもと、実際に熟議型政治教育を実施し、今後の協力関係の構築をしたほか、より経験に根ざしたファシリテーションの問題点を浮き彫りにした。翌年以降は、より詳細なデータ取得を予定している。 上記の研究から得られた成果はさまざまな学会で報告をしているほか、海外出版社(SUNY Press)からの単著としてもまとめている。本書は2024年に出版予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
子どもたちが熟議型の学習の中で経験しうる認識的不正義の研究に関しては、国内外で現代認識論の研究をする研究者と多く繋がりを持つことができたほか、自身の報告や出版された書籍に対しても、非常にポジティブなフィードバックが多かったため、予定よりも順調に進んでいると判断した。また、こうした研究成果の公表により、2024年にはマンチェスターメトロポリタン大学(英国)への招聘が決まったほか、ベルファスト(北アイルランド)の小学校の視察を行うこともできた。特に後者に関してはアイデンティティの対立が根強く残る地域にある学校ということもあり、認識的不正義に関する研究および理解を進めるという点に関しては最適の場所であるとも言える。 民主主義教育に関するレビューでは、国際共著論文を予定よりも早く出版することができたほか、海外出版社での単著出版の契約が決まったこともあり、本プロジェクトの成果を予定よりも早く公開することができると判断認め、予定よりも順調に進んでいると判断した。 個々の学校における調査に関しては、予定していたいくつかの学校が、担当者の変更などにより難航したものの、本来予定していなかった学校との繋がりを構築することができたため、予定通り2024年度は調査を行うことができると判断したため、基本的には予定を大きく変更することがなく進めていると判断した。 これらを総合し、当初の計画以上に進展しているほどとは言えないものの、順調に進展していることは明確であったため、「おおむね順調に進展している」を選択した。
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今後の研究の推進方策 |
2024年には主に以下の3点の研究を進めることを予定している。 まず、認識的不正義の研究に関しては、2023年までの研究成果を特に学校での対話教育におけるファシリテーションという観点から再解釈を行い、その中でファシリテーターが構造的不正義にどのように対処するべきかを考えるために道徳的責任に関する研究を進めていく。この研究は理論研究だけでなく、実際にファシリテーションを行う教師に対してインタビューをしたり、自身が教室の中でファシリテーションをやりながら理解を深めていくというアクション・リサーチを実施しながら行う。 次に、2023年度に形成した学校現場とのネットワークを用い、いくつかの学校で実際に熟議型政治教育の授業を行い、その際のデータを収集する。その中で、ファシリテーターを「担任」「他の教員」「外部の人間(研究者)」が行う際のそれぞれの課題および道徳的責任の範囲を明らかにする。 最後に、研究成果の公開を進めていく。論文等に関しては、認識的不正義に関する国際論文の出版(Philosophy and Social Criticismにおいて現在査読中)、民主主義教育に関する英語単著(2024年出版予定)を最優先で進める。これに加えて、熟議型教育を行う際のファシリテーター(これは教師の場合と研究者の場合がある)の倫理的責任(たとえば、子どもたちのアイデンティティの対立を促進してしまうよう案授業を行うことの正統性に関する研究)に関する国際論文の準備を行う(Pedagogy and Curriculumに投稿予定)。学会発表等に関しては、マンチェスターメトロポリタン大学の連続セミナー報告、ベルファストでの学会報告(Journal of Youth Studies Conference)、日本哲学プラクティス学会での報告などで、研究成果を逐次発表していく。
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