研究課題/領域番号 |
23K12864
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分10010:社会心理学関連
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研究機関 | 玉川大学 |
研究代表者 |
田中 大貴 玉川大学, 脳科学研究所, 特任助教 (30813802)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2025年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2024年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2023年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
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キーワード | 利他行動 / 社会的選好 / 計算論モデリング / 社会神経科学 / fMRI |
研究開始時の研究の概要 |
我々ヒトは、見返りを期待する戦略的協力だけでなく、見返りを全く無視した利他行動をとることがある。これまでの心理学研究において、こうした「非戦略的利他行動」のメカニズムについて、それを直感によって説明する仮説と、合理的な計算によって説明する仮説が提唱されている。しかし、これらの仮説がそれぞれ非戦略的利他行動をどの程度説明するのかについて、直接的な比較検討は未だなされていない。そこで本研究では、ヒトが各々有しているデフォルトの社会的選好に着目してこれらふたつの仮説を統合するとともに、非戦略的利他行動の意思決定プロセスのメカニズムを社会神経科学的アプローチにより明らかにすることを目的とする。
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研究実績の概要 |
本研究の目的は、自身の見返りを無視しているかのように行われる「非戦略的利他行動」の意思決定メカニズムを、社会神経科学的アプローチにより明らかにすることである。具体的には、自身の利得のみを気にする者(proself)は熟慮的に、他者の利得も同時に気にする者(prosocial)は直感的に非戦略的利他行動をとるという仮説を、経済ゲーム実験によって得られた行動データや、MRIにより取得した神経科学的データの分析によって検討する。本年度はこの目的に従い、(a)デフォルトの社会的選好(prosocialかproselfか)が利他行動と脳の白質繊維構造との関連に及ぼす影響の検討、および(b)利他行動の計算論的メカニズムを明らかにするための行動実験とその行動データの計算論モデリングによる解析の準備を行った。 (a)本研究に先立って取得した経済ゲーム実験の行動データおよびMRI実験の神経画像データを用い、prosocialおよびproselfの利他行動が脳の白質構造とどのように関連しているかを、正準相関分析という多変量解析の手法を用いて検討した。この分析結果は第16回日本人間行動進化学会大会にて報告を行った。今後、この利他行動をさらに非戦略的/戦略的に弁別する操作をした実験を行い、非戦略的利他行動の神経科学的基盤をより仔細に検討する予定である。 (b)利他行動が直感的・熟慮的どちらで行われているかを行動データから検討する上で、意思決定までにかかった時間の解析が必要となる。そのため、意思決定時間の代表的な計算論モデルであるDrift Diffusion Modelを行動データに適用するための解析準備と、その行動データを取得するための実験室実験を行った。次年度以降はこの実験を継続するとともに、そこで得られたデータの分析を通して、意思決定時間の計算論モデリングによる解析の基盤を固めていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」の通り、本年度は(a)デフォルトの社会的選好(prosocialかproselfか)が利他行動と脳の白質繊維構造との関連に及ぼす影響の検討、および(b)利他行動の計算論的メカニズムを明らかにするための行動実験とその行動データの計算論モデリングによる解析の準備を行った。以下にその具体的な理由を記す。 当初、本研究はまずクラウドソーシングによる参加者の社会的選好と非戦略的利他行動の意思決定メカニズムの関連性を明らかにするための行動実験を行い、その後fMRIや計算論モデリングを用いた社会神経科学的研究を実施する予定であった。しかし、他の研究者との意見交換の結果、前述の行動実験の前に、(a)利他行動一般(非戦略的か戦略的かによらない)の神経科学的メカニズムの社会的選好による違いを明らかにした上で、非戦略的利他行動の研究に着手することになった。そこで、本研究に先立ち取得した経済ゲームや社会的選好のデータ、および神経画像データの二次分析を行うことで、prosocialおよびproselfの利他行動の神経科学的基盤を検討した。また、(b)計算論モデリングの構築とその解析への運用には時間を要するため、初年度からその準備にとりかかることになった。具体的には、非戦略的利他行動の解析に必要な計算論モデルを先行研究を参照しつつ検討し、さらにそのモデルを適用するための社会的意思決定に関する予備的な実験室実験を開始した。 このように、研究目的そのものを逸することなく、かつ当初の計画以上に仔細かつスムーズな研究が可能な下準備が整ったことから、本課題は順調な進捗状況にあると言える。
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今後の研究の推進方策 |
「現在までの進捗状況」に則り、次年度は(1)本年度より開始した社会的意思決定に関する実験室実験を引き続き実施するとともに、(b)クラウドソーシングによる行動実験に着手する予定である。 (1)計算論モデリングによる行動データの解析のため、100名程度の成人に実験に参加してもらう必要がある。今年度は20名のデータを取り終えているため、次年度は残り80名のデータの取得を行なっていく。取得した社会的意思決定とその意思決定にかかった時間のデータに対して、意思決定時間の代表的な計算論モデルであるDrift Diffusion Modelを適用し、このモデルが非戦略的利他行動の意思決定プロセスにも適用可能となるよう修正を行なっていく。 (b)クラウドソーシング実験では、まず参加者の社会的選好(prosocialかproselfか)を質問紙により回答してもらったのち、非戦略的利他行動の程度を計測する経済ゲーム実験を行う。この実験では、参加者の意思決定が第三者によって観察されている条件と観察されていない条件が設けられており、非戦略的利他行動が第三者の観察の有無によって変化するか(=熟慮的にとられているか)否かを調べることができる。この実験により、prosocialは利他行動の非戦略性を直感的に選択している一方、proselfはその非戦略性を熟慮的に選択しているという仮説を検討する。
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