研究課題/領域番号 |
23K13030
|
研究種目 |
若手研究
|
配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分13010:数理物理および物性基礎関連
|
研究機関 | 学習院大学 |
研究代表者 |
蘆田 聡平 学習院大学, 理学部, 助教 (00836364)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
中途終了 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
2027年度: 260千円 (直接経費: 200千円、間接経費: 60千円)
2026年度: 260千円 (直接経費: 200千円、間接経費: 60千円)
2025年度: 260千円 (直接経費: 200千円、間接経費: 60千円)
2024年度: 260千円 (直接経費: 200千円、間接経費: 60千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
|
キーワード | APW法 / Rayleigh-Ritz法 / 永年方程式 / Sobolev空間 / ハートリー・フォック法 / グラスマン多様体 / 密度行列 / レトラクション / シュレーディンガー方程式 / 多体問題 / ハートリー・フォック方程式 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究の目的はシュレーディンガー方程式のN体問題、すなわち自然数Nに対してN個の粒子の状態を考える問題において、定量的な情報が得られるような方法を開発することである。問題として(i)定常的状態の研究と(ii)時間発展の研究が考えられるが、複数の原子核と電子から構成される分子を考えるときは、どちらの場合でもまず電子の定常的状態の研究が必要になる。定常的状態の研究とはより具体的には電子のハミルトニアンと呼ばれる微分作用素の固有関数と対応する固有値(電子のエネルギー準位)を求める固有値問題の研究である。本研究では主にこのような固有値問題を定量的に誤差評価つきで解くことを可能にすることを目的とする。
|
研究実績の概要 |
電子のハミルトニアンの固有値問題を変分法(Rayleigh-Ritz法)によって近似的に解くときは基底関数系の一次結合で固有関数を近似するため、ハミルトニアンを基底関数で挟んだ積分によって得られる行列に対する特性方程式(永年方程式)を解く。Rayleigh-Ritz法においては、真の固有関数の挙動が原子核の近傍と原子核から離れた領域で著しく異なるため、基底関数が空間全体で定義された解析的に書ける関数とするとよい近似とならない場合があると考えられる。このような問題を克復するには空間をいくつかの領域に分割し、それぞれの領域で真の固有関数をよく近似すると考えられる基底関数を使うことが必要であると考えられる。このような方法で実用的な固有値の計算法として使われているものに固体物理学におけるAPW法がある。しかし、APW法のような方法は空間全体で定義されたSobolev空間の要素を使っていないので、得られる近似固有値はRayleigh-Ritz法と異なり上界評価とはならない。私はAPW法を含む方法において、各領域のSobolev空間の要素の境界値の領域の境界におけるずれによる近似固有値の下界評価を与えた。本結果はAPW法の理論的基礎とみなせる。 また私はいくつかの分子から新しい分子を合成するときにそのもとになった分子の電子構造が保存されることを示そうと試みた。そのために離散化したハートリー・フォック汎関数の臨界点を考え、局在化した分子軌道を基底として連結後の分子に対応する臨界点をニュートン法で構成するという方法で分子の密度行列がもともとの分子の構造を保存していることを示した。密度行列全体の集合はグラスマン多様体であるため、グラスマン多様体上でニュートン法に対する誤差評価付きのカントロヴィッチの収束定理を使うため接束から多様体への新しい写像を構成した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
分子の電子構造の計算において近似固有関数を構成するための基底関数の選択は中心的な問題である。本研究において得られたAPW法による近似固有値の下界評価を導くために開発された手法はAPW法に限らず、異なる領域で異なる基底関数を用いる方法の理論的基礎を与える。したがって通常の分子の分子軌道法においても原子核近傍で通常のSTOと呼ばれる基底関数を用い、原子核から離れた領域ではより真の固有関数を近似すると考えられる関数を用いるという近似法を切り開く可能性のあるものである。 また、分子が結合するときのもとの分子の電子構造の保存は化学全体においてきわめて普遍的にみられる現象であるが、数学的に全く手が付けられていない研究分野である。本研究はこの現象にハートリー・フォック法とグラスマン多様体上のニュートン法の観点から直感的な定性的議論を超える定量的評価を初めて与えているものである。 これらの結果は分子の構造、運動を定量的に計算可能にするという本研究の目的に対する前進と考えられる。これらの結果の周辺ではまだ考えるべきことが多く残っていると思われる。一方で真に定量的な電子構造の計算において最も重要と思われる電子のハミルトニアンの固有値の下界評価に関してはその困難さの認識は深まってきているが、本質的な進展は未だ得られていないためおおむね順調に進展しているという評価にとどまる。
|
今後の研究の推進方策 |
いくつかの分子を結合して新しい分子を合成するときのもともとの分子の電子構造が保存されることに関する研究を続ける。すでに得られた結果はハートリー・フォック方程式を満たす分子軌道からユニタリ変換によって得られる局在化分子軌道の空間分布に関する仮定に基づいていて議論が複雑すぎるためより簡単な証明法を探す。何らかの意味で局在化された分子軌道を考えることは本質的と思われるが、より自然な仮定のもとで単純な原理による証明あるいは化学的直観と適合するような議論による証明を探したい。 また、分割された領域上の基底関数を使って全空間での固有関数を近似する方法及び、その誤差評価に関する研究を続ける。通常、ハートリー・フォック方程式を用いた分子軌道法では原子軌道による線形結合法(LCAO法)が適用されるが、固体物理学におけるAPW法の成功を考慮に入れると、分子に対してもLCAO法を用いることの妥当性が疑われる。そのため真の固有関数を近似するのに分割された領域上のSobolev空間を使う方法の有効性を見極める。 さらに、信頼できる電子構造の計算において最も重要な課題と考えられる固有値の下界評価法の研究を続ける。
|