研究課題/領域番号 |
23K13032
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分13010:数理物理および物性基礎関連
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
ヴー バンタン 国立研究開発法人理化学研究所, 量子コンピュータ研究センター, 特別研究員 (50973658)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2026年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2025年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 最適輸送 / トレードオフ関係 / ゆらぎ熱力学 / 量子熱力学 / 量子多体系 |
研究開始時の研究の概要 |
非平衡系を熱力学的に理解することは古典力学や量子力学において最も重要な課題の一つである。この20年の間、情報理論や微分幾何学などの他分野から新鮮なアイデアや技術を取り入れることで、非平衡熱力学の発展は大きく前進した。その結果、精度、コスト、速度といった相容れない量の間に普遍的なトレードオフ関係が発見され、揺らぎを持つシステムに内在する究極の限界が明らかにされた。本研究プロジェクトでは、最適輸送のアプローチを用いて、物理系の普遍的な性質を解明するための新しい理論を開発する。最適輸送理論の普遍性から、開発した理論は古典から量子、決定論から確率論まで、幅広いダイナミクスに適用できることが期待される。
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研究実績の概要 |
2023年度では,最適輸送理論や情報理論等を駆使して,非平衡系に内在する普遍的な関係を熱力学的な観点から解明する予定であった.まず,情報熱力学と推定理論を組み合わせることにより,情報処理系の性能に対する基本的な限界を明らかにした.具体的には,熱力学的不確定性関係を部分系に拡張し,その部分系での精度がエントロピー生成だけでなく,部分系間の情報流によっても下界されることを示した.この成果はPhysical Review Research誌に採録された.また,観測量の相互相関の非対称性と熱力学との間にある深い関係を有限時間領域で古典系と量子系の両方について明らかにした.具体的には,マルコフ過程に注目し,相互相関の非対称の度合いが散逸によって上限されること,及び量子の場合,量子コヒーレンスが散逸同様に相関の非対称性を制約する上で重要であることを発見した.この論文もPhysical Review Research誌に採録された.また,量子多体系である相互作用ボソン系における情報伝播の速度限界という重要な未解決問題を解決した.具体的には,相互作用ボソン系における情報伝播を制限する厳密な有効光円錐を明らかにし,相互作用するボソン系のシミュレーションのための証明可能な効率的アルゴリズムを提供した.この成果はNature Communications誌に採録された.そして,任意の速度で作動する熱機関の状態曲線の幾何学的長さと,その出力及び効率との関連性を探ることにより,熱機関の究極的な限界を最適輸送の観点から明らかにした.ワッサースタイン距離で定量化される幾何学的長さと熱機関の時間スケールを用いて,出力と効率のトレードオフ関係を導出し,熱機関の出力は幾何学的長さとエネルギーの統計量の積によって常に上限が決定されることを明らかにした.この成果はPhysical Review A誌に掲載された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の目標である,最適輸送の手法を用いて非平衡系における普遍的な関係を解明し,論文誌に発表することが達成された.また,予期せぬ成果として,相互相関の非対称性に関する熱力学的理論を確立した.これらを含む2023年度には,査読付き論文誌に合計4報が採択された.現在,最適輸送理論を応用した長距離相互作用を持つボソン系の速度限界を解明する論文を含む,査読中の論文が2件ある.これらの進捗から,プロジェクトが順調に進展していると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究方針としては,さらに最適輸送理論を発展させ,非平衡物理学への応用を図ることを目指している.具体的には,量子系における最適輸送の観点から,普遍的な速度限界を導出することを検討している.特に,量子系の熱力学と最適輸送理論との関係は未だ深く理解されていない.これまでの研究では量子系の幾何学的な構造を考慮していなかったため,この構造を考慮した普遍的な関係式を導出できると考えている.
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