研究課題/領域番号 |
23K13037
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分13010:数理物理および物性基礎関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
望月 健 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (70898444)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2027年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2026年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2025年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
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キーワード | 複雑性 / ダイナミクス / 相転移 / エンタングルメント / スペクトルギャップ / 開放量子系 |
研究開始時の研究の概要 |
これまで、様々な孤立量子系の複雑性が調べられ、複雑性の度合いに応じた数々の解析手法が開発されてきた。しかし、開放量子系における複雑性指標の振舞いは孤立量子系ほど理解されていない。多くの量子系では外界との相互作用は避け難く、また詳細な制御が可能な人工量子系では散逸に誘起された非自明な現象が多く観測されているため、開放量子系が如何に複雑化/単純化するかを理解する事は重要な課題である。そこで本研究では、計算複雑性やエンタングルメントエントロピー、量子回路複雑性といった指標を基に様々な開放量子系のダイナミクスや相転移を分析し、孤立量子系との本質的差異、及び効率的解析の実行可能性を探求する。
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研究実績の概要 |
対称性を持たない、ランダムな時間発展をする開放量子光学系を解析し、長時間後には古典計算機により効率的にサンプル可能な光子数分布が実現する事を明らかにした。また、光子数分布が効率的にサンプル可能となるのは、長時間後に全てのボーズ粒子(光子)が同じ一粒子状態を占有し、ボーズアインシュタイン凝縮体と類似した量子状態が実現するためである事も示した。時間空間反転対称性を持つ開放量子光学系では、対称性が自発的に破れた相では上述の機構によりサンプル可能な光子数分布が実現するが、対称性の保たれた相ではそのような事は起こらない。したがって、これらの研究により、開放量子光学系の持つ計算複雑性に対して系の対称性が果たす役割が明確化した。さらに、光子数分布が効率的にサンプル可能な量子状態が実現する時間スケールを、スペクトルギャップから見積った。これに際し、時間発展の生成子が時間依存しない系でよく用いられるスペクトル解析の手法を、生成子がランダムに時間依存する系へと拡張した。その結果、ランダム時間発展する開放量子光学系において、古典的な量子状態が実現するまでの緩和時間は、ランダムネスの強さに対して非自明な冪則を示す事を発見した。また、緩和時間に対する不等式評価やランダムネスの強さを摂動パラメータとした解析を行った。これにより、ランダム時間発展する系における緩和時間が、普遍的に冪則を示す事を示唆する結果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
時間空間反転対称性を持つ開放量子光学系とランダムな時間発展をする量子光学系を調べ、開放系では計算困難な粒子数分布が現れにくい事がわかった。また、時間空間反転対称性を持つ系は対称性のない系より高い計算複雑性を示し得る事も明らかにした。これらの成果は、本研究課題が掲げている「開放量子系を複雑性指標により特徴づける」という目標の一部を達成している。
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今後の研究の推進方策 |
初年度は、ボーズ粒子系の持つ計算複雑性に関する研究を行った。今後は、より広範な開放量子系及び他の複雑性指標を調べる。具体的には、スピン系やフェルミ粒子系におけるエンタングルメントエントロピーの振舞いを調べる。また、エンタングルメントエントロピーとスペクトルギャップとの関係を明らかにする事を目指す。上述したように、申請者は初年度の研究で、時間発展の生成子が時間依存しない系でよく用いられるスペクトル解析の手法を、生成子がランダムに時間依存する系へと拡張した。この手法により、観測下の量子系などのランダム時間発展する開放量子系のスペクトル解析を行える。先行研究で、観測下の量子系では、エンタングルメントのシステムサイズに対するスケーリングが質的に変わる、観測誘起相転移が起こる事が見出されている。また、孤立量子系における量子相転移の臨界点では、スペクトルギャップが閉じる事が知られている。観測下の量子系に対してスペクトル解析を行う事で、相転移の臨界点とスペクトルギャップとの対応が孤立量子系に限らずランダムな開放系でも成立する普遍的性質なのかを調べる。
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