研究課題/領域番号 |
23K13046
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分13020:半導体、光物性および原子物理関連
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
齋藤 了一 東京工業大学, 理学院, 助教 (80845248)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2024年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
2023年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
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キーワード | イオントラップ / 量子シミュレーション / 量子センシング / 冷却原子-イオン混合系 / 冷却原子 / 光格子 / 極低温化学反応 / 散乱 |
研究開始時の研究の概要 |
近年、光格子中の量子縮退気体は、超流動現象、固体量子シミュレーション、量子多体系といった多数の観点から注目されている。発顕した量子相を測定するために原子気体を光の回折限界以下の高分解能で観測する手法が重要となる。 本研究では外部電場で精密に位置制御可能な冷却イオンをプローブヘッドとして光格子中の冷却原子気体の光の回折限界以下の超高分解能検出・制御手法の開発を目的とする。検出・制御には中性原子-イオン間の非弾性散乱を用い、従来の光を用いた検出手法とは異なる全く新しい手法である。 また、この手法により原子のスピン状態、密度・個数分布といった物理量を超高分解能で測定する。
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研究実績の概要 |
(1)高い光学アクセス性を備えた真空装置の構築(2)Li原子の捕獲と冷却(3)光格子による原子の長距離輸送の検討について成果を得た。 (1)に関して本研究では3軸から光格子用レーザーを入射し、その中にLi原子を閉じ込め、個々サイトに冷却イオンでアクセスする。そのため真空チャンバーは高い光学アクセス性が求められる。本年度は大阪大学から東京工業大学に実験室が移転、真空チャンバーを中心とした実験装置の構築を進めた。高い光学アクセス性を確保しながらコンパクトで拡張性の高い真空装置を構築した。 (2)としてLi原子の磁気光学トラップと光共振器トラップを行った。Li原子冷却用の671nmレーザー光源とその光学系を構築し、磁気光学トラップによってLi原子を捕獲した。およそ10^8個、300μKのLi原子気体を生成した。本実験を遂行する上で十分な磁気光学トラップによる原子気体が準備できた。次に光共振器トラップへの原子気体の導入を試みた。10^6個以下という1%以下の原子しか移行できず、かつ原子数も1秒程度しか保持できなかった。これは真空度が悪いことが影響していると考えられたため、真空排気の検討と改善を加えた。十分な真空度を得られたか検証には来年度に光共振器トラップに導入できる原子数と寿命を評価することで行う。 (3)に関して(2)の手法で捕獲した原子を最終的に一軸の光格子に導入し、光格子エレベーターで原子をイオンの近くまで輸送する。光格子エレベーターで高効率に原子を輸送するためには実現する光学系の条件を最適化する必要があるため、数値計算による検討を行った。光格子用レーザーを用いて3μKの原子気体を輸送距離30cmを30ms程度で輸送できることが明らかになった。この検討により、以前の輸送方法より100倍程度短い時間で輸送が可能であることが明らかになった。実装に際しても本検討を基に評価が行える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
大阪大学から東京工業大学への移転に伴い、実験が進められない期間があったことに加えて、実験装置が移設によって一から再構築することになったため、この装置の構築に多くの時間を割く必要があったためである。特に今年度の成果の一つである真空装置の構築に多くの時間を割く必要があった。光学アクセス性の高さを追求した一方で真空装置のコンダクタンスが悪い部分やリークしやすい部分があり、十分な真空度を得られるまでに多くの時間を費やした。さらに最終的に十分な真空度が得られたかを評価するためには原子気体を捕獲し、原子数や保持時間を評価する必要がある。そのため、真空度の評価ができるまでに時間がかかり、全体の研究進捗を律速した。本研究には十分な原子の数が必要になるため原子数の増加は実験遂行上の重要な要素であるため、長い時間を要したものの着実に問題点を解決していく必要があった。今後は今回得られて知見を元に原子の冷却実験を加速して行うことが可能であろうと思われる。 本来、今年度はイオントラップによるイオンの捕獲と冷却も行う予定であったが、こちらに関しては進捗を得ることはできなかった。しかし、前年度の本研究に着手する前にイオンの捕獲・冷却に関して実験を行い、ドップラー冷却限界程度まで冷却したCa+イオンの捕獲に成功している。このとき得られた知見をもとにスムーズに実装が可能であると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の成果を踏まえて来年度の前半で一軸の光格子中の原子気体とイオンを同一地点にて捕獲し、両者の相互作用を観測することを目指す。具体的にはLi原子気体に関しては光トラップおよび光格子に高効率で移行し、光格子エレベーターでイオントラップ中心まで輸送を行う。一方でイオンに関してはイオントラップでCa+イオン捕獲し、ドップラー冷却を行う。光格子エレベーターで運ばれた原子気体とイオンが空間上の同一箇所にあると両者は散乱する。そのうち電荷交換散乱と呼ばれる非弾性散乱が起こると電荷を失ったイオンはトラップからロスを観測するため、両者の相互作用を単一レベルで検出可能である。イオンのロス確率は原子密度に依存するため原子とイオン間の相対位置を変化させることで原子気体の密度分布を再構成できることを実証する。光格子中の原子気体は光格子レーザー用の1064nmの波長の半分の532nm毎に局在する。これが十分、分解可能ならば光の波長以下レベルの分解能を持つことを実証可能である。 さらに光格子を一軸ずつ追加する。光格子の軸を追加すると原子の空間的な局在分布が変化する。3次元的なイオンのスキャンにより、3次元的な原子気体密度のプローブが可能であるか検証する。イオントラップは振動電場でイオンを捕獲しているため3次元的に動かすとイオンの運動が大きくなり分解能が低下する可能性がある。このイオン捕獲位置による分解能の変化を検証することで原子プローブとしてのイオンの有用性を検証する。 さらに次の段階として原子イオン間の非弾性散乱による原子の状態検出が可能か実験的に検証する。原子との散乱前後のイオンのスピン状態を狭線幅の遷移を用いた電子棚上げ法を用いて検出して散乱に伴うスピン交換過程を検出し、原子の状態をイオンをプローブヘッドとして読み出せるか実験的に検証する。
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