研究課題/領域番号 |
23K13058
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分13030:磁性、超伝導および強相関系関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
渡邉 光 東京大学, 先端科学技術研究センター, 助教 (10914624)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2024年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2023年度: 2,730千円 (直接経費: 2,100千円、間接経費: 630千円)
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キーワード | 反強磁性 / オプトスピントロニクス / 光電変換 / 対称性 / 磁性 / 光物性 / スピントロニクス |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、磁気秩序状態の超高速スイッチ・状態の観測方法を探索し、近年高まりを見せる超高速スピントロニクス分野の進展を狙いとしている。具体的には密度行列理論をベースに電子・磁性の実時間発展解析の手法を開発し、強磁性体・共線的反強磁性体の光スピントルクスイッチなどに取り組む。これにより電子自由度が絡む磁性の超高速光スイッチングの可能性を、理論的に物理的に自然な形で調べることができる。更に、電子自由度を取りこんでいる点を生かして、非相反光学応答などの電子物性が磁性ダイナミクスによりどのように変調されるかを調べる。
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研究実績の概要 |
本研究の目的は、電気的に活性な反強磁性体が持つ磁性・電子の強い結合を題材として、磁性の制御と特徴的な応答の開拓にある。本年度の主な取り組みは、磁性と電子のダイナミクスを精密に追跡する手法の確立、スピン結晶群対称性に基づく創発物性応答の網羅的な分類の2つ。これら二つの成果は招待講演を含む複数の研究会において発表済みであり、3編の査読つき論文として出版された(内、1編の筆頭著者論文は編集者の注目論文に選出されている)。 磁性・電子の複合ダイナミクスを調べるため、密度演算子・古典磁化の時間発展を記述する構成方程式の数値解析を行った。その結果、従来の分子場近似に基づく計算では取り込めない、磁性の集団励起の効果や磁性ダイナミクスの電子系へのフィードバックを系統的に取り込めることが分かった。この方法論を2副格子反強磁性モデルに適用して解析することで、線形・非線形光学応答のような電子自由度に関連した応答に磁性ダイナミクスが著しい補正を与えることを明らかにした。更に表現論の技法を活用することで、これら応答係数に対する補正が磁性の固有モードごとに異なる電気的活性と強く相関することも確認できた。 スピン結晶群対称性に基づく創発応答の分類は今後の反強磁性体の物性開拓における指針を与えるものである。反強磁性秩序は磁性と副格子の結合のために、相対論的スピン軌道相互作用に頼ることなく、多様な物性をもたらす場合がある。トポロジカルホール効果などの先駆的な研究が報告されていたが、これら非相対論的な電子・スピン結合に由来する物性を対称性の観点から体系化する試みは十分に果たされていなかった。そこで、従来用いられている磁性空間群より豊富な内容を含むスピン結晶群を利用し、磁性がもたらす創発応答を分類し、かつ1500ほどの膨大な磁性体に適用し、新奇な物性の可能性を提案した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度に計画していた磁性・電子の複合ダイナミクス計算手法の確立を達成できたほか、この動的性質の応答係数に対する影響についても調べることができ、予想以上の発展があったと考えている。また数値解析を進めていく過程で、将来的な大規模計算において必要になるものと考えられる、数値コスト上の課題点についても見当をつけることができた。このように、今後の研究目標達成に向けた足掛かりを作ることができた点からも十分な進捗があるとみてよい。更にスピン結晶群対称性に基づく分類から、これまで着目されてこなかった非自明な対称性を持つ反強磁性体やその創発応答を同定することができた。これは当初予想していなかった、今後の研究の拡がりを示唆する成果である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度において確立できた、電子・磁性複合ダイナミクスの計算手法をより多くの副格子自由度を持つなど更なる大規模自由度の系に適用するためには数値コストの軽量化が望ましい。これはゲージ自由度を利用し、電子と光のカップリングをうまく表現すること達成できるものと考えられる。このような手法開発と並行して、スピン結晶群を利用した磁性制御方法の同定を進め、具体的に取り組む反強磁性体の選定を行う。磁気秩序状態の変化の読みだしに不可欠な創発応答についても進める必要がある。例えば、分子場近似に基づき非線形光学応答を調べ、磁性ダイナミクスを取り込んだ応答係数の計算に向けた予備的な解析を進める予定である。
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