研究課題/領域番号 |
23K13065
|
研究種目 |
若手研究
|
配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分13030:磁性、超伝導および強相関系関連
|
研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
岩崎 義己 日本大学, 文理学部, 助手 (90781641)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2024年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2023年度: 2,990千円 (直接経費: 2,300千円、間接経費: 690千円)
|
キーワード | スピントロニクス / 熱輸送 / 有機ラジカル / 量子スピン系 / 分子性固体 |
研究開始時の研究の概要 |
分子性スピン液体物質におけるスピノンフェルミ面の実証によって、ギャップレス形成と物性を支配するスピノンのダイナミクスを解明し、量子スピン液体研究に無機物と有機物をつなぐ普遍的理解を導く。ギャップレスの起源とされる「スピノンフェルミ面」を探索するため、大きな磁場感受性を持つ分子性スピン液体物質へ熱Hall効果からSdH振動の観測を行う。スピノンフェルミ面の形状やスピノンの異方性、有効質量等を議論する。近年の無機物質での知見に、未踏であった分子性物質での知見を併せることで、ギャップレススピン液体の普遍的な描像と機構解明をめざす。
|
研究実績の概要 |
本課題では分子性スピン液体物質で議論されるスピノンフェルミ面の実証に向けて、大きな磁場感受性を持つ分子性スピン液体物質を用いた熱Hall効果測定をおこなう。近年の無機物質における知見に、未踏であった分子性物質での知見を併せることで、ギャップレススピン液体の普遍的な描像と機構解明を目指す。 現時点までの研究実績の概要として、まずは熱伝導度測定を実施して、本課題の手法である熱Hall効果測定への準備的な知見を得ることに成功した。とくに無磁場下および磁場下での熱輸送特性の議論・考察から、分子磁性体における磁気状態を反映した熱輸送の描像と磁場や温度のエネルギースケールの関係を明らかにした。また現在までの成果発信として量子現象の舞台となる複数の分子磁性体の新規開発に成功し、これまでに7本の論文の掲載に至った。特に磁気的なフラストレーションの発現に注目して、外場(温度や磁場)による磁気状態の変化や量子現象の発現機構を議論・解明した。加えて、分子磁性体の量子磁性に着目した研究が1件の研究奨励賞(日本赤外線学会)を受賞し、それに伴った1件の受賞講演を行った。初年度を総括すると、量子現象の舞台となる複数の分子磁性体を新規開発し、熱伝導度測定をはじめとした物性測定によって磁気状態やその発現機構の詳細な評価に至った。引き続きこれら研究実績を土台にして、現在は熱Hall効果測定を通したギャップレススピン液体の機構解明を目指して進めている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究期間の一年目である令和5年度は、分子磁性体についての熱Hall効果測定の準備となる熱伝導度測定を行った。初年度の目標であった熱Hall効果測定の実施には至っていないが、熱伝導度測定は本課題で行う熱Hall効果測定の結果を解析する際に、極めて重要な知見を与える。分子性磁性体を対象として、磁気ネットワークの広がる二次元面内へ熱流を印加し、面垂直方向の磁場掃引から、熱流に対する平行方向の温度差を検出して熱伝導度を求めることに成功した。特に重要な進捗として、スピン系と格子系間の相互作用の大きさを反映した温度依存性が観測できた。これは熱Hall効果測定の実施の際にも熱キャリアの描像を議論するための重要な知見となる。さらに熱Hall効果測定にむけて液体ヘリウム温度以下でも微小な温度差検出を可能とする装置改良に至った。 加えて、より大きな磁場感受性をもった分子性スピン液体物質を開発する目的で、新規分子磁性体の開発をおこなった。(p-Py-V-p-Br)2[Co(hfac)2]をはじめとして、新規合成に成功した。磁気状態の評価を通してスピン熱輸送量を決定する磁気状態が温度や外部磁場によって顕著に変化可能な材料であると明らかにした。これら新規物質ではスピン液体状態の発現は確認できなかったが、磁気測定に加えて電子スピン共鳴(ESR)測定などから磁気異方性の評価を行い、分子磁性体に適応可能な磁気異方性の付与手法を明らかにできた。磁気異方性は熱Hall効果を含むスピン熱輸送の機構に深く関連しており、これらの手法を今後の計画にフィードバックできる。現在までの進捗をもって次年度では分子磁性体への熱Hall効果測定からスピノンフェルミ面の探索と議論を進めていく。
|
今後の研究の推進方策 |
研究計画二年目は分子性スピン液体物質におけるスピノンフェルミ面の実証によって、ギャップレス形成と物性を支配するスピノンのダイナミクスを解明し、量子スピン液体研究に無機物と有機物をつなぐ普遍的理解を目指す。 一年目に実施した熱伝導度測定では、分子磁性体におけるスピン-軌道相互作用を反映した熱輸送特性を明らかにできた。この知見を基に磁気状態を制御可能な磁場エネルギースケールを決定できる。これらをもって熱Hall効果測定におけるスピノンの挙動をより正確に評価する。具体的には、熱Hall効果測定からギャップレスの起源とされる「スピノンフェルミ面」をSdH振動から探索する。対象物質として、大きな磁場感受性(スピノン状態密度)を持つ分子性スピン液体物質Zn(hfac)2(AxB1-x)を用いて、熱Hall効果測定から磁場変化に着目してSdH振動を探る。さらにフーリエ解析を通じて実験的に得られるスピノンフェルミ面の断面積を決定し、理論計算で得られる磁気ブリルアンゾーンの組み合わせからスピノンフェルミ面の形状やスピノンの異方性、有効質量等を定量的に議論する。 これらの研究成果は国内外の学術会議・学術論文として随時発信していく。特にスピン液体研究は基礎物理学や応用工学の観点からも注目されるトピックであるため、必要に応じてプレスリリースも検討する。近年の無機物質の知見に、未踏であった分子性物質での知見を併せることで、ギャップレススピン液体の普遍的な描像と機構解明をめざす。
|