研究課題/領域番号 |
23K13071
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分13040:生物物理、化学物理およびソフトマターの物理関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
池田 龍志 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (20887278)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2024年度: 2,730千円 (直接経費: 2,100千円、間接経費: 630千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | 非マルコフ過程 / プロトンホッピング / 分子動力学シミュレーション / 速度論的モンテカルロ / 量子ダイナミクス / 量子コヒーレンス |
研究開始時の研究の概要 |
光合成系に代表される量子効果を考慮する必要のある輸送問題において、状態の重ね合わせ(コヒーレンス)の寿命などが実験的・理論的に調べられているが、孤立系と違い多数の自由度がある散逸的な系では全体の過程に対するある時点のコヒーレンスの「意義」について議論することは困難である。本研究の目的は量子散逸系において、「ある点のコヒーレンスはそれ以前・以降のダイナミクスにどのように関与するのか」という、コヒーレンスの効果(あるいはコヒーレンスを維持するような効果)の解析・解釈方法を与えることである。
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研究実績の概要 |
量子効果を考慮する必要のある輸送問題において状態の重ね合わせ(コヒーレンス)の寿命などが実験的・理論的に調べられているが、孤立系と違い多数の自由度がある散逸的な系では全体の過程に対するある時点のコヒーレンスの「意義」について議論することは困難である。本研究の目的は散逸系の輸送問題において実効的な輸送に本質的に関与するメカニズムを抽出すること、特に量子散逸系において、「ある点のコヒーレンスはそれ以前・以降のダイナミクスにどのように関与するのか」というコヒーレンスの効果(あるいはコヒーレンスを維持するような効果)の解析・解釈方法を与えることである。 散逸的な系では状態遷移ダイナミクスに対する環境の結合の寄与も大きくなることがあり、量子効果とともにこの環境の効果も輸送の結果に影響を与えてしまう。よって、遷移に環境が与える影響を正しく定量化して議論しない限りは量子効果の結果を解析することが難しい。そこで、2023年度はまず量子効果の差異を定量化する議論の土台として、古典系における非マルコフな効果を取り込んだ速度論の構築を行った。具体例として水/酸化物界面でのプロトンホッピングダイナミクスを取り扱った。この系ではホッピングが起きやすい局所環境を一定の時間維持するという水素結合ネットワークによる記憶効果が大きく、速度論においても反応速度定数に基づくマルコフ過程としての描像を超えて非マルコフな効果を考えなければプロトン・プロトンホールの輸送を定量的に解析することが難しい。実際に非マルコフな効果を取り入れた時間差依存反応速度を定量化することで、分子動力学シミュレーションで起きる輸送を反応速度から再現できるようになることを示した。また、その反応速度の時間依存性の解析からプロトンホッピングに結合する振動モードを確認することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
概要の通り、今年度は応用的な計算から散逸系のモデルダイナミクスに繋げる研究として、古典分子シミュレーションの結果を散逸系の状態遷移ダイナミクスに粗視化して解析する方法論に取り組んだ。具体例として、水/酸化物界面でのプロトンホッピングダイナミクスを検証した。プロトンホッピングを含む過程には水素核の量子効果が重要であり常温でも無視できないとされているものの、全体の輸送過程については水素結合ネットワークなどの環境に由来する非マルコフな効果も大きいだろうと予想できる。そのため、まずは非マルコフな効果を含めて状態遷移を考える枠組みを構成しなれば量子効果の有無およびその効果の違いによるダイナミクスの差異を検証することが困難であると考えたためである。実際に、マルコフ過程を仮定した反応速度定数は界面でのプロトンホール拡散を過大に見積もることを数値的に示し、非マルコフな効果を含めたダイナミクスの定量方法の提案を行った。この定量化によって得られた反応速度による速度論的モンテカルロシミュレーションの結果は分子動力学シミュレーションの結果をよく再現し、かつその反応速度の解析から輸送と振動の結合などを説明できることを示した。この成果について国内・国際学会で発表を行った。また、Chem. Sci.誌に掲載された。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は古典分子ダイナミクスの非マルコフな粗視化手法に注力し、実効的な状態遷移ダイナミクスに落とし込むことに成功した。2024年度はこの枠組みに核の量子性を取り入れることで、その効果が個々の遷移および長時間の輸送特性にどのように影響するかを議論することを模索する。具体的には、(1)核の量子性がある場合に状態遷移ダイナミクスがどのように粗視化されるべきかの考察、および(2)経路積分法などによる分子動力学シミュレーションへの核の量子効果の取り込み、そして(1)と(2)を合わせた解析手法の考案・実施である。 また、2023年度はシミュレーション結果を逆解析して遷移についてのパラメータを抽出する立場を取ったが、元々の計画では遷移に関するパラメータを既知とした小さな系での量子コヒーレンスに関する基礎理論の構築から取り組む予定であった。2024年度はこの当初の計画も推し進め、最終的にはこの2つを統合してダイナミクスに実効的に重要な「量子効果」を切り分けて抽出することを目指す。
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