研究課題/領域番号 |
23K13075
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分13040:生物物理、化学物理およびソフトマターの物理関連
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
佐々木 海渡 東海大学, 理学部, 助教 (60806173)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2025年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | 水 / ガラス転移 / ポリアモルフィズム / グリセロール / 水溶液 / トレハロース / 高密度アモルファス氷 / ポリアモルフィック転移 / 分子運動 / 誘電緩和 |
研究開始時の研究の概要 |
水は科学的な観点からは異常な液体であると認識される。近年の過冷却領域での水の研究から、水の異常な性質は水が2つのガラス状態を持つこと(ポリアモルフィズム)が原因であるとわかってきた。しかし、実験の困難さから、これまでの研究は「静的」なものが多く、2つの状態それぞれの「動的」な性質についてはあまり調べられていない。よって、ガラス状態にある水の本質を理解したとは言えない。 本研究では高圧力下誘電分光測定システムを用い、測定対象に希薄な水溶液を選ぶことで実験的な困難を解消し、2つの状態にある水の分子運動の温度、圧力依存性を特徴づけ、水のガラス転移挙動を明らかにすることに挑戦する。
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研究実績の概要 |
水は科学的な観点からは異常な液体であると認識される。近年の過冷却領域での水の研究から、水の異常な性質は水が2つのガラス状態を持つこと(ポリアモルフィズム)が原因であるとわかってきた。しかし、実験の困難さから、これまでの研究は「静的」なものが多く、2つの状態それぞれの「動的」な性質についてはあまり調べられていない。よって、ガラス状態にある水の本質を理解したとは言えない。本研究ではオリジナルかつ国際的にもユニークな計測システム(高圧力下誘電分光測定システム)を用い、測定対象に希薄な水溶液を選ぶことで実験的な困難を解消し、2つの状態にある水の分子運動の温度、圧力依存性を特徴づけ、水のガラス転移挙動を明らかにすることに挑戦する。23年度は申請書に記載したとおり、(1)グリセロール/水系のガラス転移挙動の調査、(2)ラマン分光装置の最適化に取り組んだ。下記にそれぞれの状況を記載する。 (1)グリセロール/水系のガラス転移挙動 モル分率でグリセロール濃度が0.07を下回る濃度の水溶液は結晶化しやすく、バルクでは氷の析出を避けられない。これを回避するために水溶液のエマルションを調製し、その分子ダイナミクスを高圧力下で調べた。その結果、誘電スペクトルの取得には成功したが、低誘電率な分散媒の存在が原因と思われるピークのシフトが認められた。 (2)ラマン分光装置の最適化 高圧力を使って調製した試料の1気圧、77Kでのラマン分光測定を実施するため、自作のラマン分光装置の最適化を行った。具体的には窓付きのデュワーによる液体窒素を用いた試料温度の調整とそれに合わせた光学系の調整である。秋頃にはすべて完了し、高圧氷のOH伸縮のラマンスペクトルを1気圧、77Kで取得できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実施前年度から予備実験として進めていた大気圧下でのトレハロース水溶液の実験は主に低濃度側での測定が終了している。当初の目標では高濃度領域での測定を併せて実施する予定であったが、再現性の高いデータを取得するために新しく電極を開発したため、高濃度領域の測定は遅れている。 ラマン分光装置の最適化についてはおおむね完了した。窓付きデュワーに合わせた光学調整を行い、高圧力下で調製し、77Kで1気圧に回収した試料のラマン分光測定が可能になった。現在、分光器のグレードアップを検討している。 他にグリセロール水溶液を用いた広い圧力範囲での実験を進めている最中で、その成果の一部を発表するため論文投稿準備中である。 当初の予定にはなかったが、関連して新たに着想した純粋な高密度アモルファス氷(溶質濃度ゼロ)の分子運動について、同位体効果や圧力効果を調べる実験に取り組み、重要な知見を得た。 これらを総合して「おおむね順調に進展している。」とした。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は予定を変更することなく、引き続き水溶液を用いた実験を行う。さらに、申請書に記載したとおり、希薄なトレハロース水溶液を用いて、ポリアモルフィック転移前後での水溶液中の分子運動の変化を調べる。これにより、2種類の液体状態を特徴づけ、相違点を整理する。低圧力側に存在する液体状態は水素結合による局所的な秩序を有していると考えられるので、それに応じた分子運動の特性時間の分布の変化や、ガラス転移をもたらす運動のスローダウンの程度の変化を調べることができると期待している。また、時間的に余裕があれば重水を用いたグリセロール水溶液の実験に取り組むことで観測された水の誘電緩和の緩和メカニズムに関して考察する。
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