研究課題/領域番号 |
23K13076
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分13040:生物物理、化学物理およびソフトマターの物理関連
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
中澤 克昭 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 若手国際研究センター, ICYSリサーチフェロー (50972155)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2024年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2023年度: 2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
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キーワード | ガラス転移 / 走査型透過電子顕微鏡 / 5D-STEM / 4D-STEM |
研究開始時の研究の概要 |
ガラス転移では,急冷により高温での原子や分子の無秩序な原子配置が規則的に配列せずに凍結する.凍結時に原子運動と原子構造が不均一になることが知られているが,両者の関連は十分に明らかになっていない.本研究では両者の相関の実験による計測を目指す. 5次元走査透過電子顕微鏡(5D-STEM)を用いて回折図形の時空間分布を取得し,動的不均一性と構造不均一性を回折図形の時空間分布から同時観察した.原子の局所運動は回折図形の経時変化から,局所構造は回折図形から解析可能である.この解析から,緩和時間分布(動的不均一性)と原子構造分布(構造不均一性)を同時に取得し,両者の相関と温度依存の計測を目指す.
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研究実績の概要 |
本研究では、ガラス転移現象の解析のための新規手法の開発が主目的である。特に、ガラス転移点近傍での運動と構造の間の相関の解析を目的としている。ガラス転移では,急冷により高温での原子や分子の無秩序な原子配置が規則的に配列せずに凍結する。この凍結は数度の温度変化で急速に進行するが,その機構は十分に理解されていない。この急速な凍結には,凍結直前に観察される原子運動の不均一性(動的不均一性)と原子構造の不均一性(構造不均一性)が関わっていると考えられている.しかし,これらの不均一性の経時変化や両者の相関については,十分な実験による研究がされておらず,シミュレーションにより動的不均一性と構造不均一性の間に関係があることが示唆される程度である.本研究では両者の時間発展と相関の実験による計測を目指す. 動的・構造不均一性の同時観察には、nm程度の空間分解能、秒程度の時間分解能、構造変化を検出する能力の両立が必要であった。このような条件を満たす手法として、収束電子線による回折図形の時空間分布の取得を目指した。回折図形には原子構造が反映されており、回折図形の変化から構造変化の評価が可能である。また、電子線を収束させることで、空間分解能を制御できることが知られている。申請者は、さらに収束電子線により同一領域を繰り返し走査させることで、回折図形の時空間分布を取得可能であると考えた。上記のような計測を可能にする撮影条件の探索および、ソフトウェアの開発を行った。その結果、空間分解能が0.2 nm程度、時間分解能が4秒程度で回折図形の時空間分布を取得可能な5D-STEM法の開発に成功した。また得られたデータを解析した結果、規則化した原子構造ほど運動が遅くなる傾向があることを発見した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初予定していた、収束電子線による回折図形の時空間分布を取得する5D-STEM法の開発は完了している。また、5D-STEMの適用によるガラス中の運動・構造の同時観察も既に行っており、高温ほど構造秩序が高くなり、運動が早くなる過程の観察や、構造秩序が高いほど運動が遅くなる構造・運動相関も確認している。そのため、申請者が当初予定していた研究計画は一年目の段階で既に十分に達成されている。 また、関連した研究として、金属ガラスに対して高圧ひずみ加工を行った際の構造変化の観察も行っており、高圧ひずみ加工により金属ガラス中から結晶likeな構造が破壊されることを発見した。 また、金属ガラスの組成の違いによるガラス転移点近傍での運動の違いに関する研究もすでに開始している。 このように当初予定していた研究をすでに達成しており、付加的、発展的な研究も行っていることから当初の計画以上に進展していると申請者は評価している。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究方針としては、開発した5D-STEM法の改良と、適用対象の拡大を計画している。現段階では、高速度ピクセル分割型検出器を用いて計測している。この検出器はフレームベースでの測定により高速度での撮影を可能にしているが、一方で任意のフレームレートでの観察は難しい。この点が数十分以上の長時間の観察を難しくしている。そこで、フレームベースではないカメラを利用した長時間観察用の5D-STEM法を開発する。この手法はガラスの低温でのダイナミクスの観察に適している。新規開発手法を用いてガラスの低温ダイナミクスの観察を予定している。 また今後の方針としては適用対象の拡大も計画している。5D-STEMは回折図形の時空間分布を取得する手法であり、回折図形を通じて時間・空間における不均一性を観察できる。また、回折図形には多種多様な情報が含まれており、回折図形から原子構造、電磁場などの計測が可能である。原子構造の変化などを伴う結晶化現象などに本手法を適用する予定である。
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