研究課題/領域番号 |
23K13102
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分15010:素粒子、原子核、宇宙線および宇宙物理に関連する理論
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研究機関 | 東京都立大学 |
研究代表者 |
村瀬 功一 東京都立大学, 理学研究科, 特任助教 (00834095)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | 高エネルギー重イオン衝突 / 量子色力学臨界点 / 軽い原子核の収量比 / 衝突事象ごとのゆらぎ / フェムトスコピー |
研究開始時の研究の概要 |
近年、量子色力学(QCD)臨界点の探索を目的としてRHIC、FAIR、NICA、J-PAR、HIAFなど様々な高エネルギー重イオン衝突実験が世界中で計画・実施されている。一方で、臨界点の確証を得るためには、臨界点およびその他のバックグラウンドの影響が実験の測定量にどう現れるか明らかにする必要がある。本研究では、様々な効果が、軽い原子核の収量比・核子の運動量相関などの測定量に与える影響を、簡単なモデルによる定性的な理解と、現実的な動的模型による大規模計算を用いた検証を行い、最終的に臨界点探索に適した測定量を提案することを目的とする。
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研究実績の概要 |
量子色力学(QCD)臨界点の探索を目的として高エネルギー重イオン衝突実験計画が世界中(RHIC, FAIR, NICA, J-PARC)で進められている。本研究では、臨界点の確証を得るために、臨界点に特徴的な臨界ゆらぎおよびその他の(臨界点に関係なく現れる)バックグラウンドの影響が実験の測定量に対して定性的・定量的にどう影響を与えるかを調べる。初年度は、バックグランドの事象ごとのゆらぎが実験で測定される軽い原子核の収量比[特に N_p N_t/N_d^2 = (陽子収量)×(三重陽子収量)/(重陽子収量)^2] に与える影響を調べるために、定性的なモデルを考案しそれを用いて重イオン衝突反応の事象ごとのゆらぎの様々な影響について解析的・半解析的に調べた。
軽い原子核の収量は終状態の核子の分布関数(位相空間分布)から再結合模型を用いて計算される。分布関数に対して事象ごとのゆらぎをガウス分布で導入し、事象ごとのゆらぎの統計分布が収量比に与える影響を調べた。収量比に対する影響は λ = (ゆらぎの大きさ)^2 / [(軽い原子核の大きさ)^2 + (生成物質の大きさ)^2] という因子によって特徴づけられることが分かった。空間の非一様性により収量比は減少するが、事象ごとのゆらぎは収量比を増やす。また、位相空間内における事象ごとのゆらぎの次元 (分散行列のランク) も鍵になることが分かった。
更に収量日比の振る舞いにおいて、臨界ゆらぎとその他のゆらぎの影響を区別できるか調べるために、異なる統計分布を持つ二つのゆらぎの源がある場合を考えた。期待通り二つのゆらぎの特徴の違いが大きい場合に区別がしやすい。また特徴の違いが大きい方が、収量比に対する絶対的な影響も大きい。以上の結果から、これまで軽視されてきた事象ごとのゆらぎは収量比に無視できない影響があることがわかり今後の理解が重要になる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
事象ごとのゆらぎに対するこれまでにわからなかった物理的な理解が得られた。既に国際会議[ATHIC 2023, Quark Matter 2023, Hawaii 2023]で部分的結果を発表した。これまでに分かったことについて現在論文を執筆中である。また、軽い原子核の収量比が数学的・物理的にフェムトスコピーの枠組みにも関係していることは以前から分かっていたが、今回分かった物理的理解はフェムトスコピーに対しても示唆を与えることが分かった。今回開発した枠組みがフェムトスコピーの理解にも役立つという実感を持っている。 また、臨界点探索を目的として行われるより低エネルギーの重イオン衝突における動的模型の拡張も並行して進めている。特に核子やストレンジを含むバリオンの間の相互作用および、軽い原子核の動的な生成過程について推し進めている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の方針として4つの点で研究を今後発展させる。 まず、現在のモデルは半解析的に解ける範囲で計算を行っているが、より現実的な状況や複雑な状況を調べるためには解析的な計算では限界がある。仮定を減らしたより一般の統計分布に対して数値計算を実行する必要がある。特に、核子分布に寄与するゆらぎの源の種類が3種類以上の場合や、ガウス分布や一様分布以外のゆらぎの分布の場合についても調べられるように枠組みを整える。 また、単に軽い原子核の収量を見るだけでなく、衝突の中心度依存性や運動量分布に与える影響を調べることで、核子の終状態の分布に対してより強い制限がかけられるはずである。また、実験で行われるラピディティーによる粒子の選別が与える影響についても確認しておく必要がある。これらの実験の測定に即した詳細をモデルに組み込んで調べる必要がある。 また、フェムトスコピーに対して今回の枠組みを適用することを考えている。軽い原子核の収量比に対して既に分かっている物理的結果の一部はフェムトスコピーのソース関数を通して、フェムトスコピーに対する影響として翻訳して解釈することが可能である。更に、最近のフェムトスコピーでは相互作用を波動関数から抜き出す試みが盛んであるが、(軽い原子核で用いられる調和振動子ではなく) 非自明な波動関数がどのような影響を与えるかを扱えるように枠組みを拡張する必要がある。 更に、動的模型で得られた核子分布を直接使って収量比に与える影響を調べることも大切である。事象ごとの核子分布および事象平均した核子分布を用いて計算して比較する。また、実際の核子分布からゆらぎの統計分布の特徴を抽出して今回開発した枠組みを用いて解釈する。
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