研究課題/領域番号 |
23K13114
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分15020:素粒子、原子核、宇宙線および宇宙物理に関連する実験
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
廣瀬 茂輝 筑波大学, 数理物質系, 助教 (40875473)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2025年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
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キーワード | ヒッグス粒子 / ダークマター / LHC / シリコン検出器 / タウレプトン |
研究開始時の研究の概要 |
世界最高エネルギー陽子陽子コライダーであるLHC加速器は、これまでにヒッグス粒子の性質を詳細に明らかにしてきた。申請者は、ATLAS実験において2025年までに収集されるデータから、横運動量が数百GeVとなるような高運動量ヒッグス粒子をプローブとして、O(TeV)の重いダークマター候補粒子を包括的に探索する。もしRun 3で新粒子の兆候が見えた場合、ビーム輝度を約3倍に増強した高輝度LHCでの詳細な研究が重要となる。ここで高放射線下でも安定して稼働する高性能シリコン検出器を製作するとともに、その性能をフル活用した高運動量ヒッグス粒子の検出手法を開発し、高輝度LHCでのダークマター確定を目指す。
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研究実績の概要 |
2023年度は、LHC-ATLAS実験Run 3で収集されたデータを用いた高運動量ヒッグス粒子探索にむけた準備研究を開始した。まず、先行研究(JHEP 11 (2020) 163)で開発されたττジェット再構成アルゴリズムを適用し、高運動量ヒッグス粒子の探索感度見積もりを開始した。ここでは、粗い事象選別にて信号領域を設定し、期待される信号および背景事象分布をモンテカルロシミュレーションにより見積もった。その結果、当初から予想されていたZ→ττ背景事象だけでなく、QCDジェット由来の偽τレプトン事象が無視できず、その抑制や精度良い見積もりがこの解析の鍵となることがわかった。また、解析の流れを整備する中で、今後感度を上げるために改良するべきττジェット再構成アルゴリズムや信号および背景事象の選別手法について確認した。 ITkストリップセンサーの特性研究については、これまではHL-LHC全期間で期待される放射線量以上の線量(16×10^14 neq/cm^2)の照射を行い、量産センサーの特性の一様性をモニターしてきた。一方で、HL-LHC初期における照射線量は比較的少なく、よってそのような期間はより少ない放射線損傷でのセンサーの特性理解も、ITk検出器運転時の重要な知見となると考え、(1.0-8.4)×10^14 neq/cm^2での照射実験を行った。この結果から、シリコンセンサーの様々な特性はほぼ放射線量に比例して変わっていく一方で、ストリップ間抵抗は8×10^14 neq/cm^2程度までは急激に減少し、その後漸増する傾向を見せるということがわかった。ただし、この結果は照射実験に用いるためのテストセンサーを用いたものであり、したがってこの振舞いはテストセンサー特有である可能性がある。この点を解明するため、実際のストリップセンサーでの特性確認が重要となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
高運動量ヒッグス粒子探索研究についてはおおむね当初の計画通りに進んでおり、特に背景事象となる物理過程やその分布について、今後ττジェットアルゴリズムを改善したり事象選別を最適化したりするための基礎となる知見を得た。これらを、国際会議「ATLAS Higgs Workshop 2023」で発表した。 ITkストリップセンサーの放射線損傷研究については、ストリップ間抵抗値が放射線量に対して単調増加せず、前項で述べたような特徴的な振る舞いを見せた。ストリップ間抵抗が予想以上に低下すると、ストリップ間のクロストークが増加して隣接チャンネルでも信号が検出されることが多くなり、実際の運用時に予期せぬ位置分解能の悪化を引き起こす可能性がある。この点をより正確に理解するため、テスト構造体ではなく実際のストリップセンサーへの照射実験を2023年12月に行い、ストリップ間抵抗の正しい特性を理解しようと計画したが、照射施設(東北大学CYRIC)が装置不具合により停止したため、計画した照射実験を年度内に実施することができなかった。2024年度に、追加のビームタイムを申請し、この照射実験を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度には、まず高運動量ヒッグス粒子探索の事象選別を最適化すると同時に、信号と背景事象を効率的に分離するための機械学習モデルを構築し、現時点で期待される信号有意度をモンテカルロシミュレーションを用いて見積もる。また、ττジェット再構成アルゴリズムを改善し、さらにτレプトン崩壊により放出されるニュートリノが持ち去る運動量を考慮してττ不変質量を計算することで、できるだけ良い分解能でのZ→ττ背景事象との明瞭な分離を狙う。さらに、2つのτレプトンのうち一方が軽いレプトン、一方がハドロンに崩壊するチャンネルに拡張する。軽いレプトンが電子の場合、電子もハドロンと同様にカロリメータでエネルギーを落とすが、そのシャワー形状がハドロンとは異なることから区別できる。軽いレプトンがミュー粒子の場合は、ミュー粒子が外層の検出器に明瞭な信号を残すという情報を利用する。 ITkストリップセンサー研究については、2023年に実施できなかった照射実験を実施し、ストリップ間特性の正確な理解を得る。また、センサーの温度特性を精密に調査する。具体的には、ITkの荷電粒子検出効率に直結する電荷収集効率及び静電容量特性を正確に測定する。さらに、KEK PF-ARテストビームラインにて3 GeV電子ビームを照射し、最小電離粒子に対して電荷収集効率やストリップ間特性(特にクロストーク量など)を測定し、よりHL-LHCに近い実験環境でのセンサー特性を理解する。
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