研究課題/領域番号 |
23K13171
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分17020:大気水圏科学関連
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
道端 拓朗 岡山大学, 環境生命自然科学学域, 准教授 (30834395)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | 局地降水 / 地球温暖化 / 発雷 / 雲微物理 / 気候モデル / 降水過程 / 雷 / 気候変動 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究課題では、雲粒・氷晶・雨滴・雪片・雹・霰といった凝結粒子間の相互作用を重点的に精緻化し、全球気候モデルMIROCに実装する。μmスケールの雲粒子からmmスケールの雨滴・雪片、さらにはcmスケールの雹・霰粒子までをシームレスに表現する新しいモデリング手法を開発し、従来型GCMでは表現が困難であった局所的な強い降水の再現性向上を目指す。また、雹や霰によって誘発される雷の発生頻度も診断可能な設計とすることで、将来の温暖化時に落雷の発生頻度がどのように変化し、それによる森林火災の発生リスクが地域的にどう影響を受けるか定量的に評価する。
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研究実績の概要 |
全球気候モデルMIROCに適用する新しい降水スキームの開発・実装を進めた。今年度は、降雨・降雪に加えて降霰を予報する2 momentスキームの開発に着手し、気候モデルが苦手とする局地降水の再現性向上を目標として物理過程の高度化を推進した。作業の効率化のため、鉛直1次元モデルに実装することから作業を開始し、水収支・エネルギー収支の保存を確認した。新スキームで実装した降霰は粒子サイズが大きいために落下速度が大きく、安定した数値積分を実施する際に短い時間ステップが要求される問題点があることが判明した。この問題を解消するために、降水落下計算が時間ステップに依存せずに安定して計算可能な時間Implicitな降水落下スキームに更新した。それにより、計算コストを15%程度節約しながらも同程度の性能のまま安定した計算を行えることが確認できた。 新スキームの導入により、現存する気候モデルの中でも最高水準の仕様である、雲水・雲氷・降雨・降雪・降霰の質量混合比・数濃度混合比をともに予報する2 moment微物理スキームを用いた気候シミュレーションが可能となった。それに加え、雲内の降霰粒子をトリガーとして発生する発雷の頻度を評価するスキームも実装した。 開発したスキームを用いて気候値を解析したところ、人工衛星と整合的な降霰頻度・発雷頻度を表現していることが検証できた。一方で、降霰の導入による雲場・放射場の気候値への影響はそれほど大きくないことが明らかとなった。これは、降霰が発生する頻度が比較的小さいことに加え、モデルは積雲起源で生じる降霰を陽に予報していないことなどが原因として考えられる。これらの問題については、次年度以降継続して改良に取り組む予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究代表者が整備してきた鉛直1次元モデルを用いて開発を行ったことで、当初想定していた進度を遥かに上回るペースでスキーム開発を進めることができた。今年度に予定していた降霰予報型スキームおよび発雷頻度診断スキームの実装に加え、降霰および発雷の頻度を人工衛星データと比較し、精度の検証および改良を反復的に実施することができた。モデルの性能検証に用いたGPM衛星観測データは、月平均・年平均気候値をデータベース化し公開するなど、今後のモデル開発と共同研究をスムーズに実施するための基盤構築に大いに貢献する成果となった。 さらに、開発した新しい降水スキームを用いた標準的な気候実験に加えて将来気候実験も実施することで、気候場が変化した時に降霰・発雷がどのように変化するかを定量的に評価することができた。これは次年度以降に実施予定だった研究内容であり、査読論文としても既に出版されるなど、想定を上回る成果を挙げることができた。
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今後の研究の推進方策 |
今年度に実装した発雷頻度の診断スキームの他に、代表的なスキームが複数存在する。スキームの違いによって、気候が変化した際の発雷頻度の分布・量の変化は大きく異なることが予想される。したがって、次年度以降に他の発雷頻度診断スキームについても実装を試み、温暖化時にどのような発雷頻度の変化を生じるかを系統的に調査する。 また、モデルが表現する降霰の分布・量について人工衛星データと比較した際に、熱帯上空に多く見られる降霰の観測的な特徴をモデルは表現できていないことが明らかとなり、微物理の定式化に問題があることが示唆された。この問題を本質的に改善するために、積雲の微物理表現を高度化することが必要であると考えられる。 さらに、モデル開発の正当性を保証するために、人工衛星シミュレータを用いた比較も必要である。特に、これまでの人工衛星シミュレータに導入されていた雲レーダーに加え、降水レーダーを用いた比較を行うことが重要である。次年度以降に、雲レーダー・降水レーダーを複合的に組み合わせた解析を実現するために、モデル評価を行うツールの開発も並行して推進する予定である。
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