研究課題
若手研究
地殻流体と周囲の岩石の相互作用は、流体の塩濃度やCO2分圧の影響を強く受けるため、地殻流体活動に起因する動的な自然現象が起きる閾値は、外的な応力の変化に加えて、地殻流体の化学組成にも依存する。本研究ではこれらの関係性を理解するために、天然の岩石試料を用いて逆問題的にアプローチする。野外地質調査で採取した岩石の詳細な解析を行い、地殻流体の化学的進化を制約したうえで、剪断帯沿いの鉱物脈形成条件を明らかにする。
第51次および第61次日本南極地域観測隊で採取した東南極セール・ロンダーネ山地バークマンズカンペンおよびバルヒェン山に産する変成岩試料に対して、偏光顕微鏡・反射顕微鏡・EPMA・SEM-EDS・ラマン分光器を用いた鉱物同定・定量分析、LA-ICPMSを用いたジルコンのU-Pb年代測定をおこなった。バークマンズカンペンは、これまで温度―圧力条件の報告が無かった地域だが、ザクロ石中に珪線石と藍晶石の包有物が確認され、ザクロ石のリンによる組成ゾーニングと包有物の位置関係を対応づけることで、時計回りの温度―圧力履歴を示唆する結果を得た。得られた温度―圧力履歴に、ザクロ石と平衡共存していたと考えられるジルコンの年代値を加えることで、温度―圧力―時間履歴の構築をおこなった。本年度のLA-ICPMS分析は局所分析でおこなったため、ジルコンの粒子数が十分とは言えず予察的な結果であるが、ザクロ石に包有されるジルコンリムから約600Maよりも若い年代が得られた。また、バルヒェン山の試料からは、600Maより若い2つの年代値が得られた。2つの年代値は、それぞれ、ザクロ石に包有されるジルコンリムと、長石温度計で900℃を超える温度を示すパーサイトに包有されるジルコンに由来することが明らかとなった。後者の分析点はTh/U比が高い特徴を有しており、900℃を超える温度条件下でモナズ石が安定に存在しない状態となったために、Th濃度の高いジルコンが形成した可能性があると考えている。
2: おおむね順調に進展している
バークマンズカンペンおよびバルヒェン山の試料に関しては、当初の研究計画の通り、鉱物の定量分析に加え、LA-ICPMSを用いたジルコンU-Pb年代測定をおこなうことができた。本年度の年代測定では、岩石組織と対応づけるために薄片を用いた局所分析をおこない、また、分析手法に関しても改良を試みていたことから、得られたデータ数が少なかった。そのため、追加分析を予定しており、追加で岩石薄片を作成して記載を進めている。また、当該試料の地殻流体活動の解析については、含水鉱物のフッ素・塩素濃度から共存流体のフッ素・塩素フガシティー比の計算をおこなった。
2023年度の成果を踏まえ、他地域の事例と比較しつつ、引き続きセール・ロンダーネ山地を重点的に扱う予定である。同山地広域に見られる鉱物脈の定量分析をすすめ、地殻流体活動の空間的広がりを調べるために、同山地の試料から新たに重点的に分析する地域の検討を決定する。そして、地殻流体組成を制約し、その活動温度―圧力―時間条件を決定する。また、バークマンズカンペンおよびバルヒェン山の岩石薄片に含まれるジルコン粒子を追加分析し、温度―圧力―時間履歴構築の精度を高める。
すべて 2023 その他
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (24件) (うち国際学会 10件) 備考 (1件)
Journal of Mineralogical and Petrological Sciences
巻: 118 号: ANTARCTICA ページ: n/a
10.2465/jmps.230220
https://kdb.iimc.kyoto-u.ac.jp/profile/ja.b16741ecd86882c3.html