研究課題/領域番号 |
23K13227
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分18010:材料力学および機械材料関連
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
吉中 奎貴 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 構造材料研究センター, 主任研究員 (00825341)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2027年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2026年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2025年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2024年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2023年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
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キーワード | 金属疲労 / き裂 / 塑性変形 / 微視組織 / 合金開発 / 鉄鋼材料 / 疲労 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では変形が双方向変態により特徴づけられる特異な鋼材である「Bi-directional TRansformation Induced Plasticity = B-TRIP鋼」を対象に、「双方向変態」が実際の破壊を担う「疲労き裂の発生・進展」に与える影響を解明し、双方向変態を包摂した低サイクル疲労メカニズムを解明する。そして、双方向変態を含む変形可逆性概念をもとに、低サイクル疲労を材質の問題として克服することで長寿命材料の開発を目指す。
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研究実績の概要 |
本研究は従来までは材質による影響が表れにくいとされてきた低サイクル疲労寿命について、塑性変形メカニズムとして双方向変態を生じるB-TRIP鋼が特異的に優れた寿命特性を示すという実験事実に基づき、双方向変態が疲労き裂に与える影響を解明し、その特異な疲労メカニズムを明らかにすることを目的とする。 B-TRIP鋼の低サイクル疲労における疲労き裂挙動を明らかにするために、ひずみ制御疲労試験により発生・進展するき裂の観察を実施した。繰返しひずみの付与⇒試験一時停止⇒試験片表面撮影⇒再度繰返しひずみの付与の操作を繰返すことで試験片表面における疲労き裂の発生・進展を撮影した。疲労試験条件は全ひずみ振幅1%、ひずみ比-1とし、制御方式は軸ひずみ制御とした。同条件におけるB-TRIP鋼の予測疲労寿命は10,000サイクルである。 観察の結果、1サイクル目のひずみ付与の時点で試験片表面に直線的なすべり線が多数形成された。このようなすべり線の形態は、B-TRIP鋼のplanarな転位構造を反映しているものと思われる。繰返しひずみの付与に伴い、すべり線はさらに発達した。また、すべり帯の形成に伴う微小き裂の発生が確認された。観察領域内においてき裂は多数発生し、1結晶粒内で複数の微小き裂が発生・合体する様子も見られた。き裂は粒内のほか、焼鈍双晶界面においても発生した。ただし、すべり線あるいはすべり帯の発達とき裂発生は連続的な過程として生じるために、これらを明瞭に区別することはできず、き裂発生寿命を一意に定めることは現時点では困難であった。一方、き裂の発生個所となった結晶粒から隣接結晶粒にき裂が伝播するまでの繰返し数、言い換えると1結晶粒サイズの微小き裂が形成されるまでの繰返し数をき裂発生寿命と定義すると、今回解析対象としたき裂の発生寿命は5000サイクル程度であった。これは、予測疲労寿命の50%程度に相当する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
B-TRIP鋼におけるき裂発生の前駆段階としてプラナーなすべり帯が形成されることをその場観察した。また、微小き裂を多数検出することに成功し、これらの発生個所が粒内や焼鈍双晶界面など、それぞれ異なることを明らかにすることができた。また、特定のき裂についてすべり帯の発達からき裂発生、き裂進展までを追跡することができた。その結果、亀裂が発生し、1結晶粒程度の大きさまで成長するまでに寿命の半分程度を費やす場合があることを示した。今後、多数発生したき裂についてこれらを網羅的に調査する必要があるが、研究の第一段階である微小き裂の観察に成功したので「おおむね順調に進展している」と判断する。
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今後の研究の推進方策 |
多数発生したき裂についてこれらを網羅的に調査することで、B-TRIP鋼のき裂発生・進展データを拡充する。これにより、き裂挙動のばらつきを精査する。このようなばらつきにはき裂発生・進展個所となった結晶粒の結晶学的特徴が関与することが予想される。また、B-TRIP鋼の低サイクル疲労においてはき裂発生以前から巨視的な塑性変形を受けることから、予め変形相が発達した状態でのき裂挙動を考慮する必要があるほか、き裂が発生したのちはき裂による応力場内での相変態も考える必要がある。そこで、成長が著しかったき裂、反対に成長が遅いき裂をいくつか抜粋し、き裂発生個所および経路のEBSD測定を行うことで、き裂挙動を結晶学的観点から明確化する。これと併せてき裂が発生していなかった箇所についても同様の解析を行う。以上を通じて、どのような組織がき裂発生・進展を抑制しうるのか、あるいはどのような組織が早期に破壊を生じうる危険性があるのかを同定する。これにより、最終的な目標である超長寿命材料の創製に資するき裂制御の方策を明らかにする。
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