研究課題/領域番号 |
23K13260
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分19020:熱工学関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
Kim Byunggi 東京大学, 生産技術研究所, 特任助教 (10943847)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2024年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2023年度: 2,990千円 (直接経費: 2,300千円、間接経費: 690千円)
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キーワード | レーザ誘起周期表面構造 / フォノン / フォノニック結晶 / 熱伝導 / フェムト秒レーザ直接描画 / 異方性熱伝導 / レーザ誘起周期ナノ構造 / フェムト秒レーザ加工 |
研究開始時の研究の概要 |
フェムト秒レーザプロセスを用いることで半導体などの固体表面に光の波長より小さい周期ナノ構造(Laser-induced Periodic Surface Structures; LIPSS)を生成することが可能であり、表面物性の変調やマイクロ流路の作製などに応用できる。本研究では、ナノスケールLIPSSを有する半導体薄膜デバイスの作製技術を開発し、熱伝導の異方性を究明することで、指向的な熱伝導制御技術の創成に挑戦する。本研究の遂行により、半導体熱制御に資する高速ナノ構造加工技術を確立し、半導体サーマルマネジメントとマイクロ熱電デバイスなどの応用分野に寄与できると期待される。
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研究実績の概要 |
シリコンオンインシュレータープラットフォーム上にレーザ誘起周期ナノ構造(Laser-induced Periodic Surface Structures; LIPSS)の形成を行うための実験系の構築し、シリコン薄膜デバイス層に周期構造の形成実験を行った。また、LIPSSはナノワイヤ―の周期構造体とみなすことが可能であることに着想し、異方性熱伝導の物理解明のためにシリコンナノワイヤ―周期構造における熱伝導率の異方性の実験・理論的に解明した。 ナノスケールのLIPSSを高速に形成するために、レーザビームを1000 mm/sの高速でスキャン可能なガルバノスキャナーを用いたレーザスキャニング実験系を構築した。SOI表面上で、均一にLIPSSを形成するために加工条件最適化を行い、平均出力3 W、波長1030 nm、パルス幅 220 fs、パルス反復率1 MHzのフェムト秒レーザを用いて周期850 nm程度のLIPSSの形成に成功した。また、LIPSSの深さは800 ~ 900 nmの範囲になることを確認した。最適なLIPSSの形成条件において、2 mm × 2 mmの領域にLIPSSを形成するに約1秒がかかることを確認した。この加工速度は電子ビーム描画と比較して約10000倍となる。サンプルを固定した状態における最大描画面積は50 mm × 50 mmになることを確認した。 LIPSSのように強い異方的な構造を有するシリコンナノワイヤ―周期構造の異方性熱伝導の検討を行った実験では、温度帯によって熱伝導率の異方性が逆転することを発見した。4 Kと300 Kで熱伝導率は1.5倍以上も変化しており、それに伴い有効熱伝導率の異方性は2.7から5に変化した。この結果により、異方的な周期ナノ構造が熱流の整流と指向的な熱マネジメントに用いられることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度の研究遂行により、SOI表面においてナノスケールのLIPSSを成功的に形成した。また、LIPSSの溝の深さの制御性は100 nm以下であった。シリコンにおける熱フォノンの平均自由行程(1 μm程度)より1オーダー程度小さくなっているため、SOI上で熱フォノンの散乱を大きく増やせる構造が作製できた。さらに、溝の深さはフォノン平面型シリコン熱電変換素子で最大性能を示している(R. Yanagisawa et al., arXiv preprint arXiv:2307.11382(2023))、厚さ1 μmのシリコンよりちょうど100 ~ 200 nm程度小さい値であるため、熱電変換素子の開発に向けた熱伝導率の変調にも用いられると考えられる。 当初の研究計画ではLIPSによる異方的熱伝導の実現を目標としていたが、周期ナノワイヤ―構造において温度帯で異方性熱伝導率の制御が可能なメカニズムを解明にも至った。この成果は、学術的なインパクトに加え、LIPSSの応用分野を大幅に広げることとなる。フォノンの逆流現象を招くことが可能なナノワイヤ―周期構造を用いることで、半導体デバイスの能動的なサーマルマネジメントに応用可能であることを示しており、将来的に本研究結果の拡張が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
今後、SOI上に形成したLIPSSの熱伝導率の測定と、熱伝導の異方性の温度依存性の解明を行う。現在、マイクロ時間領域サーモリフレクタンス法(micro-time-domain thermoreflectance method; μTDTR)を用いてLIPSSを造形したシリコン薄膜の面内熱伝導率の測定を行うためのサンプルを作製中である。LIPSS加工用レーザの偏光を変えながらLIPSSの方位を制御しながら、熱伝導の異方性を確認する。ここで、パルスレーザスキャニング加工の離散性と不連続性によるLIPSSの不均一性を抑えるために、高均一性(High-regularity;HR)LIPSSの創成に挑戦する。シリコンではすでにHR-LIPSSが実証されており( I. Gnilitskyi et al., Appl. Phys. Lett. 109, 143101 (2016))、超高速光―物質相互作用に立脚してSOIにおけるHR-LIPSSの実現を目指す。また、クライオスタットを用いて温度を低温から室温まで制御しながら、LIPSSにおけるフォノン輸送現象を解明し、異方性熱伝導への影響を調べる。 熱電変換素子への応用に向けては、1 μm厚のヘビードープ多結晶シリコン薄膜における熱伝導率の低減と、それによる熱演変換性能指数を調べる。LIPSSの下部に100 nm以下の電子輸送路を作製し、熱電変換性能を最大化するための構造最適化を行う。したがって、今後の本研究の遂行により、LIPSSの学理と応用分野の開拓までを包括的に扱うことが可能であると考えられる。
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