研究課題/領域番号 |
23K13328
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分21020:通信工学関連
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
村田 健太郎 岩手大学, 理工学部, 助教 (20848030)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
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キーワード | インテリジェント電波伝搬制御 / 無線電力伝送 / 伝搬路推定 / スパース信号処理 / アレーアンテナ / 可変負荷 / 電力センサ / 無線環境 / 負荷変調 |
研究開始時の研究の概要 |
電波を用いた無線給電は、給電対象が見通し外にある場合、電波が環境内で散逸し、対象まで電波が届かず給電効率が著しく劣化する。一方、信号源を持たないアレーアンテナと可変負荷から成る受動構成により、空間中で散逸する電波に作用することができるが、この構成では伝搬路状態を把握できず、電波伝搬特性の自在制御は困難である。そこで本研究では、この受動構成にアレー素子からの散乱波の強度を観測するためのセンサを1つ追加するだけで、アレーアンテナ全体の伝搬路推定とインテリジェントな電波伝搬制御を可能とする手法を提案する。これにより極限まで簡素化されたハードウェアで位置・環境依存のない超高効率無線給電を実現する。
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研究実績の概要 |
電波を用いた無線給電は、遠方・広範囲に電力供給可能であるが、電波が対象に到達するまでに環境内で散逸してしまい給電効率が著しく劣化する。そこで、環境内に多数のアンテナ(アレーアンテナ)を配列することで、これに入射した電波を一度回収し、各アンテナから再放射される電波の強度やタイミング(位相)を、各アンテナに接続された負荷の変化により制御することで、散逸した電波を対象点に収束させることができる。ただし、このアレーアンテナ自体には、能動的に信号を送受信する機能はなく、どこから電波が来て、どこに電波を届ければ良いかが分からず、適切に電波伝搬制御することは困難である。 そこで本研究では、この受動的なアレーアンテナに電波強度情報のみ観測可能なセンサを1つ外付けするだけで、これに入射し再放射される全ての電波の伝搬状態を把握し、インテリジェントな電波伝搬制御を可能とする手法を提案する。これにより、対象物の位置や環境に依存しない超高効率無線給電を実現することを目的とする。 当該年度に実施した研究開発の主要成果として、提案する電波伝搬路推定および制御法に不可欠となる可変負荷回路の開発が挙げられる。提案法では、各アンテナの負荷を変化させたときに、前述のセンサで観測される電力値が変化する現象を利用することで、電波伝搬路状態を推定しており、これに必要な最少負荷値は3値であることを証明している。そこで今回、異なる長さの3本の伝送線路とスイッチとを一体化実装した回路を試作し、回路面積を従来比88%削減しつつ、極低損失で3値の負荷値を実現することを可能とした。 現状、当初の計画よりも半期程早く研究が進展しており、以上の研究成果を含め、当初予定していた外部発表件数を大幅に上回る外部研究発表(国内学会9件、国際学会2件、受賞1件)を達成することができた。今後、試作可変負荷回路を用いた提案法の実証実験を予定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当該年度に計画していた研究開発内容は、下記2点に集約される。第一に、受動伝搬制御システムの開発である。まず128素子アレーアンテナ部については、指導学生1名の協力の下、電磁界解析ソフトを活用し効率的に設計を行い、更に技術職員1名の補助を得て基板加工機を用い製作をし、高精度な伝搬路推定に要求される技術仕様(反射-17 dB以下)を達成できていることを確認した。可変負荷回路部については、SP4Tスイッチとコプレーナ位相線路を一体化実装した回路を試作し、回路面積は従来回路比で88%削減でき、挿入損失1.5 dBで異なる3値の位相特性を実現でき、当初の目標をほぼクリアすることができた。 第二に、スパース表現伝搬路推定法の研究である。これについては、本事業開始前から検討を開始し、プレビームフォーミングによる不要な角度ビンの削減と、遺伝的アルゴリズムにより最適化した不等素子間隔の既推定伝搬路情報の活用により、スパース信号処理に要する計算時間を7.5倍高速化しつつ、ほとんど劣化の無い伝搬路推定精度が得られることをシミュレーションにより確認している。 以上のように、スタッフの人的資源の活用と事前検討の推進により、当初の研究計画よりも半期程早く研究が進展している状況であり、当初予定していた外部発表件数を大幅に上回る国内外学会発表(国内9件、国外2件)を既に達成することができた。そこで次年度に予定している実証実験に向け、アレーアンテナと可変負荷回路を接続するケーブルの選定・購入、受動伝搬制御システムを支持・固定するための治具の設計・外注依頼、電力センサ設置位置・向きの最適化シミュレーション等を前倒しで実施済みである。したがって、次年度開始直後から実験系構築に速やかに着手することができる。
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今後の研究の推進方策 |
今後、以下の2つの検討内容を軸に研究開発を進める。第一に、提案するインテリジェント電波伝搬制御法を検証するための実験系構築と実証実験である。実験系構築に必要なSP16Tスイッチや高周波ケーブル等は既に購入済みであり、またアンテナ位置に対する伝搬路推定精度および給電効率特性を自動測定する際に用いるネットワークアナライザやポジショナ等の測定装置については既に多くの運用実績がある。したがって、実験系構築(可変負荷回路部を除く)は速やかに実施可能であり、2024年度7月内の完了を目指す。これと並行して、試作済みの可変負荷回路を、アレー素子数計128個分複製する必要がある。回路複製については、人的・時間資源削減のため基板実装業者に外注し、こちらも7月内完成を予定している。実験系構築・実証実験は、指導学生2名と技術職員1名の協力を得て実施し、2024年度前期中に完了する見込みであり、本成果をアンテナ・伝搬分野3大国際会議の1つであるEuCAP2025に投稿する(10月中旬〆切)。 第二に、当該システムを活用した新応用技術に関する研究開発である。これは当初、本事業最終年度に計画していた内容であるが、本研究開発の進展により半期程早く着手可能となる見込みである。具体的には、当該システムを任意の無線環境を再現するためのエミュレータとして活用するものであり、これにより通信機器やレーダ等の無線装置の性能試験プロセスを大幅に簡略化可能となる。既に、これを実現するための可変負荷制御アルゴリズムおよび可変負荷回路は開発済みであるが、事前検討の段階で本応用においては、アレーアンテナ内の素子間結合・アンテナ素子の周波数特性が再現精度に大きく影響することが分かっている。そこで、現在国際共同研究を実施しているルンド大学・Lau教授協力の下、素子間減結合・広帯域特性を両立するアレーアンテナの開発に挑戦する。
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