研究課題
若手研究
日本では現状、所有者の合意形成の課題から建替えや区分所有権の解消が困難であり、既存のマンションを長期間活用していくことが求められる。本研究は、大規模・長期ミクロデータを用い、区分所有マンションにおける大規模修繕・リノベーションが、資産価値の維持に効果を発揮しているかを明らかにすることを目的とする。特に、①大規模修繕に向けた積立を弱める集団的意思決定が生じる可能性、②経年減価が過度に進んだ後にしか各所有者によるリノベーションが実施されず、十分にその効果を発揮できていない可能性を検証し、資産価値を長期間にわたり維持する方策の提示を試みる。
本研究課題では、(A)集団的意思決定に基づく棟レベルの大規模修繕と資産価値の関係、(B)各所有者による住戸レベルのリノベーションと資産価値の関係を分析し、さらに、(C)これらの傾向の建物・立地特性による違いや、棟レベル管理水準と住戸レベルリノベーションの効果の交互作用について分析を深める。2023年度は、分析(A)を中心に、2つの研究課題を進めた。第1に、中古マンション売買データにおける修繕積立金額の情報を用いて、修繕積立金の水準と経年減価との関係を分析した。修繕積立金は築10年前後までは低い水準に抑えられており、その後、適切な水準に引き上げられる物件とそうでない物件に分かれる。積立強度の低いマンションは、築浅時点では価格の下落はみられないものの、大規模修繕が適切に実施できないことが露見する築25-34年にかけて大きく価格が下落する。積立強度を高めたマンションの資産価値は市場で十分に評価されているとはいえず、積立強度を高める便益は費用を下回るため、積立強度を高めるインセンティブは限定的である、との結果が得られた。以上の内容を論文としてとりまとめ、国内学術誌に投稿を進めている。第2に、老朽化や管理組合の担い手不足が顕著な「高経年マンション」が増加しており、住まい探しにおいて、管理状況や管理組合運営の状態が新たな判断材料となり、価格に反映されることが社会的にも望ましい。そこで、マンション管理に関する評価制度のデータを分析し、①管理評価の高い物件では、未取得の物件に比べ価格が高いこと、②築古物件では管理組合収支などの居住者の貢献が求められる項目が価格に影響すること、③現時点では、管理評価情報が公開されたことによって、管理水準が高い物件は高く売れるようになったとはいえないこと、が明らかとなった。今後、以上の分析をさらに深め、論文としてとりまとめを進めたいと考えている。
2: おおむね順調に進展している
2023年度は、初年度であるものの、分析(A)の一部を論文としてとりまとめ、投稿に進むことができた。また、その他の分析についても、一定の分析結果を得ることができ、社会的に意義のある内容と考えられる。以上より、「おおむね順調に進展している」と判断できる。
2024年度には、分析(A)のマンション管理に関する評価制度のデータの分析結果についてとりまとめ、学会発表を行う予定であり、さらに国際学術誌への論文投稿を進める予定である。また、分析(B)についても、プロトタイプの分析を発展させていくことを予定している。
すべて 2024 2023
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件)
Journal of the Japanese and International Economies
巻: 71 ページ: 101306-101306
10.1016/j.jjie.2024.101306
In: Asami, Y., Sadahiro, Y., Yamada, I., Hino, K. (eds) Studies in Housing and Urban Analysis in Japan. New Frontiers in Regional Science: Asian Perspectives, vol 75. Springer, Singapore.
巻: - ページ: 3-20
10.1007/978-981-99-8027-7_1
International Journal of Housing Markets and Analysis
巻: forthcoming 号: 1 ページ: 25-47
10.1108/ijhma-03-2023-0037
季刊住宅土地経済
巻: 129 ページ: 27-35