研究課題/領域番号 |
23K13544
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分26020:無機材料および物性関連
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
藤井 進 大阪大学, 大学院工学研究科, 助教 (90826033)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | イオン伝導 / 固体電解質 / フォノン / 第一原理計算 |
研究開始時の研究の概要 |
電池の大型化、高エネルギー密度化、安全性の向上を目指し、全固体電池の開発が進められている。その実用化における課題の一つが、高いイオン伝導度を示す固体電解質の探索である。本研究では、新物質や既知の高イオン伝導体を対象に原子・電子レベル計算を行い、特定のイオン振動によって促進される高速イオン伝導機構の存在を明らかにする。得られた知見を元に、物質中のイオンの振動状態を指標とした、新たな固体電解質の探索指針の提案を試みる。
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研究実績の概要 |
室温で高いイオン伝導度を示す固体電解質の探索は、全固体電池の開発における重要課題である。本研究では、物質固有の原子振動(フォノン)が結晶格子の柔らかさの指標となることに着目し、フォノンに基づく新たな固体電解質の探索指針の提案を試みる。初期段階では逆ペロブスカイト型化合物M3XCh(M=Li,Na; X=H,F; Ch=S,Se,Te)を対象に、点欠陥や非調和振動性を考慮した、特定のフォノンにより促進されるイオン伝導機構を原子レベルで調べる。その後、構築した手法を既知の高イオン伝導体にも適用し、第一原理フォノン解析に基づく汎用的な固体電解質探索指針の獲得を目指す。 1年目においては、イオン空孔及び非調和振動を考慮したフォノン解析の先端的手法を、逆ペロブスカイト型化合物Li3HSに適用した。その結果、Li空孔近傍においても、Liのイオン伝導を促進するフォノンへの影響は少ないことが分かった。また、非調和振動(有限温度における原子振動)の影響を解析したところ、イオン伝導を促進するフォノンの周波数が高くなることが示された。 Li3HSにおけるフォノン解析に成功したため、逆ペロブスカイト型化合物M3XCh(M=Li,Na; X=H,F; Ch=S,Se,Te)における広範なフォノン解析を開始した。その結果、LiもしくはNa空孔の影響は、一部の化合物においては顕著になることが示された。また、非調和振動によるフォノン周波数の増大の程度も、構成元素によって異なった。 以上の計算により、従来よりも現実に近い条件下での逆ペロブスカイト型化合物のフォノン特性が系統的に明らかになりつつある。これらの計算を継続することにより、フォノンとイオン伝導の関係がより一般的な形で明らかになると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Li3HSを対象に、イオン空孔を含む系でのフォノン計算の理解を容易にするBand Unfolding法、そして有限温度での非調和振動がフォノン周波数に与える影響を評価可能なSCPH法の適用を行った。この際、導入した計算設備を活用した。種々の条件下での計算を実行したことにより、現実的な時間で実行可能な範囲で、十分な精度を確保できる計算条件が明らかになった。この計算条件を用いて、導入した計算設備及び大学等研究機関のスーパーコンピュータを利用し、M3XCh(M=Li,Na; X=H,F; Ch=S,Se,Te)における広範なフォノン解析を開始した。これにより、複数の逆ペロブスカイト化合物における、イオン空孔と非調和振動がフォノン特性に与える影響が明らかになりつつある。1年目は、Li3HSにおける計算条件探索の完了およびM3XCHにおける系統的フォノン解析の着手が当初目標であり、それが達成できているため、順調に研究が進展していると言える。また、それに付随して、研究実績の概要に記載したような学術的知見も解明されつつある。
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今後の研究の推進方策 |
2年目においては、M3XCh(M=Li,Na; X=H,F; Ch=S,Se,Te)における広範なフォノン解析を継続する。すべての化合物において解析が終了した後、特定のフォノン周波数とイオン伝導性(活性化エネルギー)の関係を調べる。もしイオン空孔の存在と非調和振動性を考慮しても、なおフォノンと活性化エネルギーの間に明確な相関関係が現れる場合、少なくとも逆ペロブスカイト型化合物M3XCHにおいては、フォノン周波数が材料設計指針となりうることが実証できる。これが2年目における最も大きな課題である。 また、逆ペロブスカイト型化合物を持つ新たなLi/Na伝導体の候補が見つかった場合、そのフォノン特性とイオン伝導機構の解析を実施する。これには、分子性アニオンを結晶構造に含むような複雑な化合物も含まれる。 加えて、既知の高イオン伝導体を対象に、フォノン計算を開始する。逆ペロブスカイト型化合物においては、フォノンの振動方向とLi/Naの伝導方向が対応する場合に、明確な相関関係が現れている。そこで、イオンの伝導方向に対応するフォノンモードを効率的に抽出するプログラムの開発を試みる。これにより、フォノンに基づく固体電解質材料の探索が他の結晶構造を持つ化合物にも適用可能か検証する。 これらの計算には、前年度及び今年度に導入予定の計算機を利用する。加えて、大学等研究機関のスーパーコンピュータ等を活用し、第一原理分子動力学計算などの負荷の高い計算を実行する。
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