研究課題/領域番号 |
23K13610
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分27040:バイオ機能応用およびバイオプロセス工学関連
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
森田 健太 神戸大学, 工学研究科, 助教 (60804127)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2024年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
2023年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
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キーワード | 電子顕微鏡 / 電子染色 / ペプチド / 錯体 / 細胞内小器官 |
研究開始時の研究の概要 |
透過型電子顕微鏡(TEM)は光学顕微鏡と比べて圧倒的な分解能を持つにもかかわらず、細胞小器官の選択的観察には光学顕微鏡が用いられる。その大きな理由として、細胞小器官を選択的に染色するTEM用のプローブが存在しない点が挙げられる。 細胞内小器官をTEMで選択的に可視化するには金属イオンを集積させる必要がある。そこで、重金属イオンと錯体形成したペプチド脂質を細胞内の望んだ部位に局在させることで、TEMでの選択的な可視化に挑戦する。本研究は、ペプチド金属錯体がTEM用の標識プローブという新しい領域を切り開く、学術的にも産業的にも意義深いテーマである。
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研究実績の概要 |
透過型電子顕微鏡(TEM)は最新の超解像光学顕微鏡と比べても400倍以上という分解能を持つにもかかわらず、細胞小器官の選択的観察には光学顕微鏡が用いられる。その大きな理由として、細胞小器官を選択的に染色するTEM用のプローブが存在しない点が挙げられる。 我々の研究グループでは重金属イオンと錯体を形成するペプチド配列(GGH)と炭化水素鎖を組み合わせたペプチド脂質を報告している。そこで、重金属イオンと錯体形成したペプチド脂質を細胞内の望んだ部位に局在させることで、TEMでの選択的な可視化に挑戦した。まず、ペプチド脂質と重金属の形成する錯体を基にした電子染色剤をデザインした。具体的には、小胞体へ金、あるいはパラジウムイオンの送達を目的としたペプチド脂質C16-GGGHを設計・合成した。C16-GGGHは肝がん細胞であるHepG2に対して、処理3 hまでは目立った細胞毒性を示さなかった。蛍光ラベル化したC16-GGGHであるFl-C16-GGGHは処理1 h程度では細胞膜上に局在し、3 h以降からは細胞内で顆粒状に局在した。細胞内小器官を同時染色することでC16-GGGHの局在位置の同定を試みたが、少なくとも核、ミトコンドリア、小胞体に局在していないことが判明した。ターゲットとした小胞体に移行しなかった理由としては、以前作製し小胞体への移行を確認したペプチド脂質とはペプチド配列部分が異なるためと考えられる。また一方で、C16-GGGHとパラジウムイオンの錯体形成は強酸性条件下で緩やかに進行することが確かめられた。以上から、C16-GGGHは細胞膜の電子染色に用いられる可能性がある。今後、パラジウムイオンとC16-GGGHの錯体を実際に培養細胞に添加してTEM観察を行い、細胞膜のコントラストが向上していることを確かめる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
C16-GGGHはFmocペプチド固相合成法を用いて合成した。C16-GGGHの細胞内動態を調査するため、蛍光ラベル化したC16-GGGH (Fl-C16-GGGH)を作製した。肝がん細胞(HepG2)にサンプルを添加し、細胞生存率を測定した。その結果、C16-GGGHはいずれの濃度においても3 h以内であれば目立った細胞毒性を示さなかった。次に、C16-GGGHの細胞内動態を観察した。HepG2にFl-C16-GGGHを添加し、1,3,6 hインキュベートした。その後、培地を交換し細胞核、または、ミトコンドリア、小胞体を染色した。細胞は共焦点レーザー走査型顕微鏡(CLSM)を用いて観察した。 細胞との処理時間1h程度では細胞膜にFl-C16-GGGHの強い蛍光が確認された。その後、3h以降では細胞内の特定の位置に蛍光ラベル化ペプチド脂質Fl-C16-GGGHの局在が確認された。Fl-C16-GGGHの細胞内局在位置の検討を行った結果、いずれの部位にもFl-C16-GGGHは局在していないことが確認された。予想に反してFl-C16-GGGHが小胞体に局在しなかった理由としては、先行研究で用いていたペプチド脂質のペプチド配列と今回用いた配列が異なっていることが原因となっている可能性がある。 C16-GGGHとパラジウムイオンが錯体形成する条件について検討した。D-PBSにペプチド脂質C16-GGGHを添加し、1M塩酸を用いて強酸性溶液とした。混合開始から18h経過後、パラジウムイオンに由来する280 nmの吸光度が低下していることが確認できた。混合開始直後の吸光度はパラジウムイオン単体と同程度であったことから、18時間の間にC16-GGGHとパラジウムの金属錯体の形成が行われていることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
金あるいはパラジウムイオンと錯体を形成して小胞体に局在するペプチド脂質モデルとしてC16-GGGHの設計・合成を行った。蛍光ラベル化したC16-GGGHであるFl-C16-GGGHは処理1 h程度では細胞膜上に局在し、3 h以降からは細胞内で顆粒状に局在した。細胞内小器官を同時染色することでC16-GGGHの局在位置の同定を試みたが、少なくとも核、ミトコンドリア、小胞体に局在していないことが判明した。C16-GGGHは予想に反して小胞体に局在しなかった。その理由としては、先行研究で用いていたペプチド脂質のペプチド配列と今回用いた配列が異なっていることが原因となっている可能性がある。染色対象を細胞膜に変更するか、炭化水素鎖をC16から他の構造に変更することで細胞内局在位置が明確なペプチド脂質を新たに合成する必要がある。今後の推進方策としては次の2つを同時に行う。(1)パラジウムイオンとC16-GGGHの錯体を用いて細胞膜の電子染色を行う。パラジウムイオンとC16-GGGHの錯体形成を確認し、これを培養細胞に添加してTEM観察を行い、細胞膜のコントラストが向上していることを確かめる。さらに、STEM-EDSによる元素マッピングを行い、高いコントラストの部分にパラジウム原子が存在していることを示す。(2)他のペプチド脂質を設計する。GGGHをより細胞小器官特異性の高い官能基と結合させたペプチド脂質を作製する。具体的には、ミトコンドリアを標的とするモルホリン基や、リソソームを標的とするトリフェニルホスフィンを検討している。
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