研究課題/領域番号 |
23K13634
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分28030:ナノ材料科学関連
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
田中 直樹 九州大学, 工学研究院, 助教 (00844672)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | 熱化学電池 / レドックス種 / ペリレンジイミド / ゲル / ゼーベック係数 / イオン性熱電発電 / キャパシタ / 熱電変換 / 酸化還元反応 / イオン伝導 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、可逆的かつ速い電子授受能をもつ有機レドックスポリマーを基盤とした全固体熱化学電池の開発を目的とする。酸化還元活性な電解質を用いた熱化学電池は、小型機器の独立電源としての利用が期待されているが、そのほとんどは溶媒系の電解質で構成されているため、フレキシブル・ウェアラブルデバイスへの利用は不向きである。そこで本研究はレドックスポリマーを土台として、高速電子輸送と高速イオン輸送能を兼ね備えた固体電解質の作製し、熱化学電池に展開する。またポリマーの高次構造制御による異方性制御、電極およびセル構造の最適化による電解質/電極間の電子授受の高速化により、秀逸な熱化学電池の開発を目指す。
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研究実績の概要 |
本研究ではレドックスポリマーを基盤とする固体熱化学電池の開発に向けて、ペリレンジイミド誘導体(PDI)の酸化還元特性を利用した電解質の作製に取り組んだ。PDI還元体は電子とイオンを輸送できる混合伝導体であることから、温度差によるイオン拡散とこれに付随した電子移動が可能である。これまでPDI還元体を用いた熱化学電池が報告されているが、柔軟性の欠如や低いイオン伝導度など、解決すべき課題が残っている。そこで本年度は、PDI還元体を用いてフレキシブルかつ高性能な熱化学電池の開発を目的とした。 柔軟な固体電解質として、ハイドロゲルをマトリックスとするPDI/ゲル複合体を合成し、そこに還元剤である亜ジチオン酸ナトリウム水溶液を導入することで、PDI還元体/ゲルの作製を行った。ポリエチレングリコールベースのハイドロゲルと種々のPDI誘導体を組み合わせた結果、アルキル基を導入したPDI誘導体が還元後もマトリックスから漏出することなく形状を保持していたことから最適な電解質として採用した。また還元後のPDI/ゲルのX線構造解析から、PDI間のπ-スタッキングに由来するピークが観測され、ゲル中でPDIが自己組織化していることが明らかになった。このことは電極間のキャリア移動に有利に働くと考えられる。 作製したPDI還元体/ゲルを白金電極セルに取り付け、電極間に温度差を加えた時の起電力を測定したところ、温度差が上昇するにつれて起電力は上昇し、その傾きからゼーベック係数は、-2.18 mV/Kのn型特性を示した。しかし負荷抵抗を接続した時、温度差で発生した開放端電圧が消失したことから、この熱電デバイスは当初の目的である熱化学電池としての挙動ではなく、熱的に充電するキャパシタとして振る舞うことが明らかになった。そのため次年度以降は、温度差により電極間で電子授受が進行するための分子を設計する必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究で作製したPDI還元体/ゲルは、当初の目的である熱化学電池として機能せず、熱的に充電するキャパシタとして振る舞うことが明らかになった。これは所謂イオン性熱電発電であり、温度差によるイオンの拡散に基づく発電原理に由来する。従って本系では電解質中のPDI還元体と電極間の電子授受が進行していないことが想定される。そのため温度差に応答して各電極とPDI還元体間で酸化、還元反応が進行するための分子を設計する必要がある。しかし一方で、PDI還元体/ゲル複合体に対して温度差を加えるだけで、数mVの電圧が発生する点は興味深い。現段階では、過剰に添加した亜ジチオン酸ナトリウムと水酸化ナトリウムがこの電圧発生に由来していると考察しているが、ここにPDI/電極間の電子授受に基づく起電力がプラスされれば、さらに大きな電圧の発生に期待できる。従って当初の研究目的とは異なる研究結果であったが、熱化学電池の高性能化に向けた設計指針の見通しが立てられた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究成果を踏まえ、次年度では熱化学電池作製に向けて、①温度差に応答して各電極/電解質間で酸化還元反応が進行するシステムを考案する。このためには、各電極における酸化反応と還元反応のエントロピー差を増大させる分子設計が必要となる。そこでPDIの自己組織化を利用した電解質設計を目指す。具体的には低温側ではPDIの自己組織化が進行するのに対して高温側では組織化が崩れる、といったエントロピー差を増大させるためのシステムを構築する。気を付けるべき点として、PDI還元体は非常に反応性が高いため、空気下では容易に取り扱えないことが予想される。そのため今後はPDIに限定せず、ビオロゲンやニトロキシルラジカルなどの他の酸化還元種も電解質の候補に入れて研究を進める。 また本年度の研究成果の中で、偶然にもイオン性熱電発電に関する知見が得られた。そこで上記研究計画に支障が出た場合には、イオン性熱電発電の性能向上に向けた電解質の開発も視野に入れる。特にイオン性熱電発電の課題である低いイオン伝導度を改善するための電解質をデザインし、発電性能向上を目指す。
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