研究課題/領域番号 |
23K13666
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分29020:薄膜および表面界面物性関連
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
西早 辰一 東京工業大学, 理学院, 助教 (80966078)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
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キーワード | トポロジカル半金属 / 薄膜 / 磁性 / 異常ホール効果 / トポロジカルホール効果 / フラストレート磁性 / 量子輸送現象 |
研究開始時の研究の概要 |
磁性体における輸送現象では、電荷・スピン・軌道の自由度以外にも、波数空間での電子構造や実空間でのスピン配置に内在する幾何学的位相(ベリー位相)が重要な要素となるが、これまで波数空間由来と実空間由来のベリー位相に対する応答はそれぞれ切り分けて議論されてきた。それに対し、本研究では、結晶構造に磁気フラストレーションを有し、かつ、トポロジカルに非自明なバンド構造を持ち得るEu化合物群に着目し、薄膜化による歪みの印加・人工的積層構造の作製などのエピタキシャル制御を通して、電子状態のトポロジーと立体的なスピン配置の両方が密接に関わるトポロジカル伝導現象を開拓することを目指す。
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研究実績の概要 |
本研究では、4f電子系で最大の磁気モーメントを持つEu2+イオンを含み、結晶構造に磁気フラストレーションを有するEu化合物に着目し、薄膜化による歪みの印加・人工的積層構造の作製などのエピタキシャル制御を通して、波数空間の電子状態のトポロジーや実空間でのスピン配置が密接に関わるトポロジカル伝導現象を開拓することを目指す。本年度では、以下の成果があった。
Eu三角格子を持つトポロジカル物質EuM2X2(M=Cd,Zn, X=As,Sb)の薄膜化とその電子状態およびトポロジカルな磁気輸送輸送特性の評価を行った。単一のワイル点ペアを持つ物質として理論予想されていたEuCd2As2について、分子線エピタキシー法による薄膜化と低キャリア濃度の実現に初めて成功した一方で、熱活性型の絶縁体的輸送特性を観測し、EuCd2As2が当初の理論予想とは異なり、バンドギャップを有する電子状態を持つことを実験的に明らかにした。また、多数のワイル点ペアを持つEuCd2Sb2薄膜において、ワイル点に由来する巨大異常ホール効果に加えて、基底状態のA型反強磁性秩序から強制強磁性状態へ至る磁化過程で、ホール抵抗と磁気抵抗に非単調なピーク構造が現れることを新たに発見し、理論計算との比較から、それらがともに磁化過程でのベリー曲率の非単調な変化に対応していることを明らかにした。
新規物質開拓として、Euの歪んだ三角格子を持つEuCd2,EuZn2の薄膜化にも取り組み、初めて高品質なエピタキシャル薄膜を得ることに成功した。また、従来反強磁性秩序を示すことのみが報告されていた同物質群において、異常ホール効果だけでなく、バルクの非自明なスピン秩序に由来すると考えられるトポロジカルホール効果、そして、磁気転移磁場付近で急峻に増大する非単調なホール効果を観測した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度では、 まず研究対象であるEuのフラストレーション格子を持つ物質群の薄膜作製と、単膜の状態での磁気輸送特性の評価に重点を置いた。その結果、複数の物質において世界で初めてのエピタキシャル薄膜の作製に成功し、これまで明らかになっていない磁気輸送特性の観測・解明に成功している。
特筆すべき成果として、EuCd2As2については、バンドギャップを持つ絶縁体であることを示したが、これはそれまでEuCd2As2がトポロジカル半金属物質であることを前提に進められてきたにバルク結晶での先行研究の解釈を覆しうる重要な発見といえる。一方、トポロジカルな伝導現象の開拓という本来の研究目的の観点からは、トポロジカル半金属EuCd2Sb2薄膜に着目し、スピン秩序の変化に伴うベリー曲率と磁気輸送特性の変化の相関を明らかにした。磁化過程でのベリー曲率の非単調な変化の影響は、既存の報告ではホール抵抗において現れることが議論されてきたが、本成果はフェルミ面の小さなトポロジカル半金属ではホール抵抗だけなく、磁気抵抗においても磁場とベリー曲率に比例する寄与があることを示した。また、新規物質開拓の一つとして薄膜化に成功したフラストレーション磁性体EuCd2では、実空間のスピン秩序由来のトポロジカルホール効果だけなく、磁気転移において磁気ドメイン境界の形成に由来すると考えられるトポロジカルホール効果を新たに発見した。磁気ドメイン境界に由来するホール効果の例は、これまで観測例が非常に限られているが、特にEuCd2ではバルク由来のホール効果以上の巨大な寄与として現れていることが分かり、その微視的な起源の解明に取り組んでいる。以上の理由から、本年度の研究進捗状況を当初の計画以上とした。
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今後の研究の推進方策 |
初年度においては、Eu三角格子を持つトポロジカル半金属物質EuCd2Sb2や歪んだEu三角格子を持つEuCd2などの高品質薄膜において、スピン秩序や対称性を反映した巨大な異常ホール効果・磁気抵抗効果・トポロジカルホール効果を観測した。次年度では、より薄膜試料特有の自由度を積極的に活用し、磁気フラストレーション格子の設計とトポロジカル伝導現象開拓を進めていく。電界効果によるキャリア制御や、化学置換やヘテロ構造での近接効果・対称性の破れを利用したバンド構造や磁気秩序の変調によって、それらのトポロジカルな輸送現象の制御に注力する計画である。
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