研究課題/領域番号 |
23K13704
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分32010:基礎物理化学関連
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
鬼塚 侑樹 東北大学, 多元物質科学研究所, 助教 (80848036)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2027年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2026年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2025年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | 原子・分子物理 / 物理化学 / 電子・分子衝突 / 電子分光 / 分子内原子運動 / 化学反応ダイナミクス |
研究開始時の研究の概要 |
物質の機能性は、物質内原子の運動によって発現する。特に、気相・固相では発現しない特異的な反応性・機能性を有する固体表面について、気相・固体表面・表面吸着種という反応場のいずれかに焦点を当てた表面科学実験手法が開発されてきた。本研究の目的は、そうした研究手法とは一線を画した、気相・表面吸着種・固体表面の反応場全体を対象として、反応性を司る物質内原子の運動についての直接的な情報を与える新たな表面科学実験手法を確立し、表面科学の理解の深化を図ることである。この目標のために、研究代表者らが気相分子を対象に分子内原子運動の観測法として確立した原子運動量分光法を固体表面と表面吸着種に一気に展開する。
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研究実績の概要 |
本研究の目的は、高速電子のコンプトン散乱を用いて、物質内原子運動を直接観測する原子運動量分光法の分子分光法としての定量化と、適用対象を従来の気体分子から固体表面へと一気に展開することである。これにより、吸着前と脱離後の気体分子、表面吸着種および、固体表面原子で構成される反応場全体にわたる原子運動量の観測が可能となる。こうした従来の表面科学研究手法とは一線を画した本手法を用いて、触媒などに広く用いられる固体表面の動的素過程の新しい研究に挑む。 本年は、実験結果から原子運動の情報の抽出に必要な多原子分子の原子運動量分光理論の構築とその適用範囲の決定を行った。従来の原子運動量分光理論は二原子分子についてのみ適用可能であったが、こうした制限の要因を解決することで多原子分子の原子運動量分光理論の構築を行った。そして、二原子分子を対象として従来の理論と本理論の予測結果の比較および、気相多原子分子を対象とした実験結果と理論予測の結果を比較することで、極低温を除けば、基準振動の波動関数が得られるあらゆる分子について適用が可能であることが分かった。また、本実験により正確な原子運動量観測が可能となる実験条件の分子種および原子依存性について検証を行っている。今回は、重水素化水素分子(HD)を対象として、これまでに報告している水素分子内水素原子の測定時との比較を進めている。また、既にメタン分子についても必要なデータセットを取得しており、依存性の検証のための準備を整えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請時の計画では本年は、気相分子を対象として原子運動量分光の分子分光法としての確立を予定としており、予定通り原子分子の原子運動量分光理論の開発および、正確な原子運動量の観測のために満たすべき、実験条件の探索を行ったため、順調に進展しているといえる。また、本年を含め2.5年年で計画していた、表面サンプルの導入のための装置改良については、やや遅延している。これは、上記実験および理論研究の中で計画当時では予測できなかった装置の不具合やデータ解析法の改良の必要性が生じたことや、本手法の分子分光法としての新たな応用法を示唆する全く新しく興味深い実験結果を得ることに成功し、その測定及びデータ解析を進めたためである。しかしながら、本改良は2.5年を予定しているため、研究計画全体に対しては許容範囲内の遅延といえる。 一方で、当初計画には含まれていなかったフェムト秒レーザーによる空間配列分子の電子電子散乱実験装置の立ち上げおよびそれを用いた電子分子衝突の立体ダイナミクス研究を新たに平行して進めることができたのは大きな成果の一つである。これを本手法に用いることで、将来的には分子固定座標系での原子運動量分光実験が可能になることが見込まれるため、本研究の目的に掲げた動的反応素過程の研究をさらに深化させる成果である。
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今後の研究の推進方策 |
令和6年度はまず、やや遅延している装置の改良を行う。具体的には、サンプル温度調整機構・装置の分解能に向けた減速レンズの設計を進める。サンプル温度調整機構については、市販のヒータを装置に新たに導入する。一方で減速レンズの設計・開発については、荷電粒子トラジェクトリシミュレーションを行い最適な構造を決定した後に、代表者の所属機関内の機械工場にて製作を進める。それらの性能評価は、気体分子を対象とした原子運動量分光実験を行い、装置の分解能を評価する。また、サンプルの温度に関しては、我々は温度をパラメータとして、実験で得られる原子運動量分布を正確に予測する理論を既に開発しているため、実験結果と理論予測を様々なサンプル温度条件で比較を行うことで、導入した温度調整機構の実効的な温度を決定する。 上述した温度調整機構を早急に導入し、減速レンズの設計・開発に並行して、温度の上昇に対して、原子運動量分布の依存性を実験的に探索する。これは、表面から脱離した分子・原子の温度を推定する指標になる。また、温度の調整が可能なることにより、従来は実験が困難であった蒸気圧の低い分子についても、本実験が可能となるため、そうした分子を対象に実験を行い、本手法の分子分光法としての適用領域の拡大を図る。
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