研究課題/領域番号 |
23K13705
|
研究種目 |
若手研究
|
配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分32010:基礎物理化学関連
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
深堀 信一 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助教 (10802142)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2024年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2023年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
|
キーワード | 高強度光 / 回転分光 / イオン化 / インパルシブ回転ラマン / 回転状態分布 |
研究開始時の研究の概要 |
光子の数密度が大きい高強度超短レーザーパルスを気体の分子に照射すると、分子と多数の光子が多段階に相互作用して、分子の回転運動や分子内の電子の放出によるイオン化が相関しながら誘起される。本研究では、生成した分子イオンの回転状態測定を通じ、高強度光による分子の複雑な回転誘起機構を解明し、分子回転運動と電子運動の相関を明らかにすることを目指す。しかし、中性分子の状態分布測定に用いられてきた分光学的手法を、分子イオンの状態分布測定に適用することは容易ではなかった。そこで分光学的手法と高強度光によるイオン化を組み合わせる新規手法によって、この問題を解決する。
|
研究実績の概要 |
本研究は、高強度超短レーザーパルスによって気相分子がイオン化して生成した分子イオンの回転状態分布を調べ、回転励起機構を明らかにすることを目的としている。今年度(2023年度)は、高波長分解能の波長可変紫外ナノ秒レーザーパルスと高強度フェムト秒レーザーパルスを用いた回転状態分布測定法の実証として、中性分子の回転状態分布を測定することを試みた。一酸化窒素分子(NO)を対象分子とし、回転冷却するために超音速分子線とした。Coumarin 440を色素とした色素レーザーシステムの出力として、波長可変な紫外ナノ秒レーザーパルス(波長452 nm)を生成し、その2倍波(波長226 nm)をNOに照射した。2倍波の波長がNOの第1電子励起状態と電子基底状態の回転準位間のエネルギー差に共鳴している場合のみ、NOの第1電子励起状態が生成する。さらに、チタンサファイアレーザー増幅システムの出力である高強度近赤外レーザーパルス(波長790 nm)をNOに照射してイオン化した。高強度レーザーパルスの強度を、電子基底状態にあるNOをイオン化しない閾値程度に調整したところ、紫外ナノ秒パルスの波長が共鳴してNOが第1電子励起状態に励起したときのみ、NOをイオン化して、NO+イオンを検出することができた。そこで紫外ナノ秒パルスの波長を掃引して、NO+の収量を調べることによって、NOの回転状態分布を測定することができた。 さらに、高強度フェムト秒レーザーパルスによって、分子がイオン化したときに生成した分子イオンの回転状態分布を計算する理論を、強レーザー場近似によるイオン化の理論と、フェムト秒レーザーパルスによる分子の回転励起に関する理論を組み合わせて、開発した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度(2023年度)には、本研究で提案する手法を用いて、中性分子の回転状態分布を測定できることを実証した。次年度以降、高強度フェムト秒レーザーパルスによる分子のイオン化で生成した分子イオンに対して、同手法を適用することによって、本研究の目的を達成することができる。特に、真空チャンバー内において、対向して入射する紫外ナノ秒レーザーパルスと高強度フェムト秒レーザーパルスの集光点を時空間的に重ねることは、本研究の実験的な困難の一つであったが、集光レンズを自動並進ステージに載せて集光点の位置を制御するなどの工夫を行い、解決した。また、今年度実施した中性NO分子の回転状態分布測定に用いたCoumarin440エタノール溶液による色素レーザーシステムとその出力の2倍波である紫外ナノ秒レーザーパルスは、次年度以降実施する酸素分子イオン(O2+)の回転状態分布の測定に使用することができると考えている。 高強度フェムト秒レーザーパルスによって生成した分子イオンの回転状態分布を計算する理論をすでに開発した。従って、次年度以降測定する分子イオンの回転状態分布の理論的検証が可能である。以上を踏まえ、現在までの進捗状況はおおむね順調に進展している。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度以降は、高強度フェムト秒レーザーパルスによって生成した分子イオンの回転状態分布測定を進めていく。そのためには、分子イオン生成に用いるフェムト秒レーザーパルスと回転状態分布測定に用いるフェムト秒レーザーパルスの間に10 ns以上程度の遅延時間を付ける必要があり、3 m以上の光路を新たに構築する。 まずO2分子を対象として実験を行う。高強度光によるO2のイオン化では、最高被占分子軌道である1πg軌道の形状を反映して、レーザー偏光方向とO2分子軸が45°をなすときにイオン化しやすいことが知られており、このときに生成したO2+イオンの回転状態分布の測定を目指す。その後、窒素分子(N2)なども対象として、分子イオンの回転状態分布測定を試みる。N2は波長800 nmの高強度フェムト秒レーザーパルスによってイオン化したあとに、フェムト秒レーザーパルス内でN2+イオンの電子励起が起きることが知られており、電子励起過程が回転状態分布に与える影響を調べる。
|