研究課題/領域番号 |
23K13716
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分32020:機能物性化学関連
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
田中 正樹 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (50830387)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2024年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2023年度: 2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
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キーワード | 自発配向分極 / フッ化アルキル基 / 分子配向 / 有機薄膜 / 真空蒸着 / 有機半導体 |
研究開始時の研究の概要 |
真空蒸着法により成膜するだけで形成可能な自発分極膜は、有機EL素子性能や振動発電素子の発電出力の向上に寄与することが報告されている。この自発分極は、成膜過程で極性低分子が自発的に配向することで形成されるが、分子の配向機構は未解明の部分が多く、積極的に配向制御するための分子設計も限られている。本研究では、分子成膜過程における極性分子間および下地薄膜との相互作用に着目して極性分子の配向機構を明らかにし、高い配向度を示す極性分子および大きな表面電位を有する自発分極膜を開発する。
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研究実績の概要 |
一部のアモルファス性極性分子は真空蒸着過程で自発的に配向し、表面電位を有する自発分極薄膜を形成する。本研究では、成膜過程で永久双極子を高秩序に配向し、巨大な表面電位を形成することができる極性低分子の設計指針を構築することを目的としている。 2023年度は主に、ヘキサフルオロプロパンおよびフタルイミドからなる6FDI骨格を用いて極性分子を設計・合成し、組み合わせる末端極性官能基が配向分極に与える影響を評価した。種々の極性官能基を組み合わせた極性分子の特性を比較した結果、極性官能基の対称性が高く安定な配座異性体が少ない分子は配向分極が大きくなることを見出した。安定配座構造の探索および量子化学計算の結果、分子内で永久双極子モーメントの方向を制御することが薄膜の自発分極増大に寄与することを明らかにした。 また、極性官能基の結合位置が異なる位置異性体を利用することで、配向分極の極性を設計できることを明らかにした。これらの位置異性体分子は、構成元素や分子量などは全て同一であることから、配向分極の極性は特定の原子や官能基の種類により決定されるのではなく、本質的には分子内の双極子モーメントの向きと成膜過程における分子の配向様式に依存することを示唆している。 さらに、全体的な分子極性に大きく影響しないメチル基等の官能基を付加すること自体は、薄膜の配向分極の大きさにほとんど影響しないことを明らかにした。これは、極性分子の配向を保持したまま、有機半導体分子として電荷輸送や発光などの特性を制御できることを示唆しており、分子配向を利用した有機電子デバイスの高性能化に寄与すると期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度は6FDI骨格を用いて数種類の極性分子を開発し、自発的な配向分極を増大するための分子設計指針の基礎を構築した。配座異性体の影響を見積もるために、配座探索・量子化学計算により各異性体の存在比率および永久双極子モーメントを計算した。この結果から見積もった平均的な永久双極子モーメントと配向分極の大きさとの間に良い相関があったことから、分子配座の精密な制御が配向分極向上に重要であることを明らかにしている。 上記計算手法をもとに、分子量および構成元素が同一である位置異性体分子を利用して配向分極の極性をデザインできることを予測し、合成した分子が予測通りの結果を得た。このことから、本研究で適用した計算手法とこれまでの知見により、配向分極の特性を概ね予測できると考えられ、さらに優れた特性を示す極性分子の設計にも活用できると期待できる。分極薄膜の表面電位は蒸着膜厚に比例するが、その成長率が200 mV/nm以上を示す分子の開発に成功しており、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は引き続き、高秩序な配向分極を示す極性分子の開発を行う。2023年度の成果から、極性分子の配座異性を考慮に入れた分子設計の重要性が明らかになったため、配座異性体の存在分布を制御する手法や新たな分子骨格の探索に着手する。これまでに構築した計算手法により有望な分子骨格をスクリーニングし、実際に合成・評価して知見を蓄積していく。また、成膜過程の薄膜再表面における分子拡散性の観点から、成膜速度や基板温度などの成膜条件が配向分極に影響すると考えられる。成膜条件を最適化することにより、配向分極をさらに増大し、成膜過程における分子配向メカニズムの本質的な解明を目指す。
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