研究課題/領域番号 |
23K13737
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分33020:有機合成化学関連
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
林 裕樹 北海道大学, 化学反応創成研究拠点, 特任准教授 (90802223)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
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キーワード | 酵素 / ラジカル反応 / 立体制御 / 含窒素複素環 / P450 |
研究開始時の研究の概要 |
ラジカル反応は有機合成の強力なツールとして幅広い分子合成に利用されているが、ラジカル種に起因する高い反応性のためにその立体制御が困難であり、生成物は通常ラセミ体として得られてしまう。そこで本研究では、生体酵素P450を触媒として用いるラジカル反応の立体制御を目的とする。特に、ラジカル反応特有の1,5-水素原子移動から調製されたラジカル種の結合形成段階を、光学活性なアミノ酸で構築されたキラル空間によって制御することを目指す。反応性と立体選択性の向上のために、構成されるアミノ酸残基を変異させ、本反応に有効な人工金属酵素の創成を図る。本研究の成功は、生体酵素を利用する有機合成分野の発展に貢献する。
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研究実績の概要 |
ラジカル種を用いる有機合成手法は、低分子合成から高分子重合まで幅広く利用される強力なツールである。近年、遷移金属触媒や可視光レドックス触媒を用いる手法の発展により、有機分子に遍在するC-H結合から穏和な条件下でラジカル種を調製できるようになった。しかし、高い反応性を有するラジカル種の立体制御は未だに困難であるため、生成物は通常ラセミ体として得られてしまう。そこで、本研究では、光学活性なアミノ酸で構築されたキラルな反応場を有する生体酵素シトクロムP450を触媒として用いるラジカル反応の立体制御を目指した。特に、ラジカル反応特有の1,5-水素原子移動(1,5-HAT)によるラジカル種の調製とその結合形成段階の立体選択性を、酵素中のヘム鉄とその周辺のアミノ酸残基によって制御することを狙った。 検討した結果、1,5-HATを経由するラジカル環化反応が、Bacillus megaterium由来のシトクロムP450BM3の種々の変異体を触媒として用いた際に、立体選択的に進行することを見出した。また、本反応は、シトクロムP450BM3の代わりに、キラルな反応場を持たない鉄ポルフィリン錯体を用いても進行することを確認した。これは、本反応が、酵素のヘム鉄とその近傍の光学活性なアミノ酸残基で構築される反応場によって、立体選択的に進行していることを示唆する重要な結果である。本反応によって得られる生成物は、様々な医薬品で見られる含窒素複素環骨格を有しており、創薬研究での利用が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初目指していた、1,5-HATの立体制御を可能とする酵素触媒を見出すことができたため。本研究で見出した1,5-HATを経由するラジカル反応の触媒的立体制御の例は、これまでに報告がないため、関連研究分野において重要な結果となった。また、反応に用いる変異酵素によって、目的生成物の収率や立体選択性が異なる結果が得られた。この結果は、今後の収率と立体選択性の向上に向けたアミノ酸の変異導入の重要な指針となった。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに見出した1,5-HATを経由するラジカル反応の収率と立体選択性の向上を狙い、酵素のアミノ酸残基の変異パターンを精査する。また、類似の1,4-HATや1,6-HATを経由する反応への展開も目指し、それぞれの反応の立体制御に有効な反応場を有する酵素触媒の開発も目指す。さらに、本手法を基質としてラセミ体を用いた速度論的光学分割に応用し、既存の低分子触媒では達成困難な分子変換も目指す。 これらのラジカル反応の反応経路は、量子化学計算を用いて算出し、アミノ酸の変異による立体選択性への影響を調べる。得られる計算結果は、アミノ酸残基の変異の指針として用いて、さらなる立体選択性の向上を図る。
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