研究課題/領域番号 |
23K13757
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分34010:無機・錯体化学関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
和田 啓幹 東京大学, 生産技術研究所, 助教 (00902389)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2024年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2023年度: 2,990千円 (直接経費: 2,300千円、間接経費: 690千円)
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キーワード | 亜鉛 / 可視光吸収 / 可視光発光 / 二核錯体 / 空軌道 / dブロック元素 / 金属間相互作用 / 可視光機能 / 金属複核錯体 / 金属クラスター |
研究開始時の研究の概要 |
周期表第3-12族に属する元素はdブロック元素と位置づけられ、dブロック元素を中心金属に有する錯体は、様々な色を呈する。しかしながら、第12族元素は例外的に白色ないし無色錯体を形成し、金属中心は可視光応答性を示さないことが教科書事実として広く知られてきた。本研究では、その典型である亜鉛に着目し、複数個の亜鉛間に働く軌道間相互作用の導入に基づいた可視光応答性錯体の創出を目的とする。これは、安価で低毒性な金属である亜鉛の可視光機能という未踏領域の開拓に挑戦するものであり、課題達成により可視光触媒や可視光センサー、デバイス用発光材料など、亜鉛の利用範囲の拡張が期待される。
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研究実績の概要 |
周期表中第12族元素の亜鉛は白色ないし無色錯体を形成し、金属中心は可視光吸収を示さないことが教科書事実として広く知られてきた。そこで令和五年度は、可視光吸収を示す亜鉛錯体の開発を計画していた。本研究の戦略としては、金属間相互作用の利用であり、複数の亜鉛原子間に働く軌道相互作用に着目し、可視光吸収を示す亜鉛二核錯体の創出に取り組んだ。分子設計に際しては、亜鉛二原子間の距離を制御するケイ素架橋配位子を用いることにより軌道相互作用の発現を目指した。創出した錯体のうち、一部は黄色を呈し、単結晶X線構造解析により目的の構造であることが確認された。さらに、量子化学計算・紫外可視吸収スペクトル測定の結果から、黄色を呈した錯体は、亜鉛二原子間に生じた低エネルギーな結合性の空軌道によって可視光吸収を示すとわかった。以上、本研究により初めて、亜鉛の軌道を利用した可視光吸収を示す亜鉛錯体の創出に成功した。また、亜鉛錯体において可視光吸収の達成には、亜鉛の空軌道を適切に利用する分子設計が有効であることが示された。 上記が令和五年度に予定していた計画であったが、一部の錯体において可視光発光を示す錯体が得られたため、令和六年度の計画を前倒しにして、発光特性評価とそれに基づく励起状態ダイナミクス解析も行った。その結果、スピン反転を伴う項間交差やりん光発光が一般的な有機化合物と比べ、比較的高速に生じていることがわかった。以上の発光特性の変化は、亜鉛による重原子効果の影響と帰属でき、錯体の励起状態に亜鉛中心の軌道が関与することにより、スピン反転を伴う遷移の高速化が起こることが示された。本成果に基づくと、亜鉛錯体は可視光機能の一つとして発光材料応用も有望であり、今後さらなる分子設計の深化により、高速な発光を示す発光性亜鉛錯体の開拓も期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
令和五年度は、可視光吸収を示す亜鉛錯体の創出を計画しており、実際に可視光吸収を示す亜鉛二核錯体の創出に成功した。また、それにより、亜鉛の軌道を利用して可視光吸収を示す錯体の分子設計指針の一つを明確にすることができた。さらに、合成した錯体のうち、いくつかの錯体は発光性を示すことがわかった。可視光発光は、可視光吸収から生じるアクティブな応答の一であり、その開拓は令和六年度に計画していた内容であったものの、進捗が想定以上であったため、計画を前倒して発光特性評価ならびに、励起状態ダイナミクスの解析を行った。以上の進捗は、本研究の課題である、金属間相互作用に基づく第12族元素亜鉛の可視光機能開拓を大きく推進するものである。
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今後の研究の推進方策 |
令和五年度までに、当初目的としていた可視光吸収や発光といった可視光応答性を示す亜鉛錯体の創出に成功した。また、それら亜鉛錯体の創出には、金属間の相互作用として、亜鉛原子間の空軌道の相互作用を用いることが分子設計の一つとして有効であることがわかってきた。一方で、令和五年度に創出した錯体の一部に、有色を呈するものの、光物性測定が未完了な錯体がある。令和六年度は、亜鉛錯体の様々な可視光機能開拓に向けた、さらなる精緻な分子設計指針の確立を志向して、既存の錯体の光物性評価とその機能開拓に取り組む。
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