研究課題/領域番号 |
23K13769
|
研究種目 |
若手研究
|
配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分34010:無機・錯体化学関連
|
研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
石崎 聡晴 日本大学, 文理学部, 助手 (90875791)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2025年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
|
キーワード | ポリオキソメタレート / S=1/2 / スピンqubit / 量子ビット / 第一遷移金属イオン / 磁気的性質 |
研究開始時の研究の概要 |
近年, 量子情報処理のための量子ビットの候補として, 長い量子コヒーレンス時間を示すS=1/2単核遷移金属錯体が注目されている。スピンの重ね合わせ状態である電子コヒーレンスは核スピンの影響により失われてしまうことから, 核スピン量の小さなタングステンを骨格として持つ分子性の金属酸化物は, スピンコヒーレンスの保持のために有用であることが期待される。 本研究では, ポリオキソタングステン酸を配位子としたS=1/2系の量子コヒーレンス現象をパルスESRにより明らかにする。また, より緩和時間の長いを示す遷移金属導入ポリオキソメタレートの探索を行う。
|
研究実績の概要 |
量子情報処理への応用の観点から様々な系が提案されている中で, 分子を用いた系は化学修飾による調整性の高さから盛んに研究が行われている。分子系では近年, コヒーレンス寿命の上限を決めるスピンー格子緩和時間の長い単核S=1/2錯体に焦点が当たっており, 高温でも働く量子ビットの候補化合物として注目を集めている。 申請者は, この観点から分子性の金属酸化物であるポリオキソメタレートに注目しており, S=1/2を持つ銅(II)イオンおよびオキソバナジウム(IV)イオンを導入したポリオキソメタレートの示すスピンコヒーレンス現象の観測をパルス波を用いた電子スピン共鳴(ESR)法を用いて成功した。このスピンコヒーレンスは100 K以上でも保持されたが, これは温度の上昇によっても比較的長い縦緩和時間を持つことが要因であることが明らかとなった。また, 銅(II)イオンを導入した化合物で用いたKeggin型タングステン酸は中心に様々な電荷のヘテロイオンを導入可能であることから, Si(IV), P(V), S(VI)イオンを持つ化合物のテトラブチルアンモニウム塩を合成し, 同構造・反磁性の亜鉛(II)体を用いたモル比1%希釈粉末に対してパルスESR測定を行うことでエコー減衰挙動およびコヒーレンス寿命の比較を行った。無機配位子を持つS=1/2系のスピンコヒーレンスは我々のグループの知る限り初であり, 交流磁化率測定を用いて決定した低温のスピンー格子緩和時間の温度依存性および静磁場依存性を含めて, 現在論文化を進めている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
中心ヘテロイオンにSi(IV), P(V), S(VI)を持つS=1/2銅(II)イオン置換Keggin型タングステン酸のテトラブチルアンモニウム塩のテトラブチルアンモニウム塩の合成, 同構造・反磁性体を用いたモル比1%磁気希釈粉末の調製およびパルスESR測定を完了し, 全ての試料でスピンコヒーレンスの観測の観測することができた。中心ヘテロイオンの変化により, 減衰挙動に用いるモデルや緩和時間に変化があったが, この変化はこれら化合物の磁気希釈粉末の交流磁化率測定によって見積もった縦緩和時間の静磁場および温度依存性と照らし合わせることで, 合理的な理解が得られたと考えている。また, 同じくS=1/2を持つオキソバナジウム(IV)イオンを置換したKeggin型スルホタングステン酸の合成にも成功し, 磁気希釈体の交流磁化率測定から温度1.8 K, 静磁場5000から7000 Oeの範囲で1秒を超える非常に長い縦緩和時間を見積もることができた。この化合物においても同構造・反磁性体を用いた1%磁気希釈粉末の調製を行い, パルスESR測定からスピンコヒーレンスが観測された。この化合物のコヒーレンス寿命は銅イオン含む化合物よりも長く, バナジウム(IV)イオンの利用もポリオキソメタレートベースのS=1/2系の磁気緩和時間を長くすることに有用であることが示唆された。 また, より大きな構造を持つDawson型タングステン酸についてもS=1/2銅(II)およびオキソバナジウム(IV)置換体の合成を完了しており, こちらも磁気希釈体の調製およびコヒーレンス挙動の解明が行える状況にある。
|
今後の研究の推進方策 |
今回測定した全てのサンプルにおいて, エコー減衰の片対数プロットは良い直線性を示した。これは, ストレッチファクターを用いた単減衰過程を考慮した解析で得られる1に近いストレッチパラメータで示されるように, エコー減衰がプロトンの移動により支配されていることを示している。この要因を取り除くことでスピンエコー減衰挙動の変化ならびにコヒーレンス寿命の増大が期待される。 測定に使用したポリオキソメタレートはそれほど多くの核スピンを含まないが, 一方で磁気緩和を促進する分子間相互作用を抑えることを目的に使用したカチオンのテトラブチルアンモニウムイオンには核磁気モーメントの大きなプロトンを多く有している。 そこで今後の展望として, エコー減衰に対するカチオンの影響を考察するために, 有機カチオンの代わりにカリウムなどの無機カチオンを持つ銅(II)イオンおよびオキソバナジウム(IV)イオン置換Keggin型タングステン酸を調製し, エコー減挙動をパルス波を用いた電子スピン共鳴法により明らかにする。カチオンを無機イオンとした場合, 多くの水和水を含むようになり, こちらに含まれるプロトンもコヒーレンス寿命を減少させる要因となることが予想されるが, 乾燥による脱水もしくは水和水を重水に変えることでこの効果を抑えることを考えている。 また, より大きなDawson型タングステン酸のS=1/2銅(II)およびオキソバナジウム(IV)置換体のカリウム塩についても磁気希釈体を調製し, コヒーレンス挙動の解明を行うことでポリオキソメタレートのサイズが与えるエコー減衰に対する影響を考察していく。
|