研究課題/領域番号 |
23K13777
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分34020:分析化学関連
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研究機関 | 科学警察研究所 |
研究代表者 |
山口 晃巨 科学警察研究所, 法科学第三部, 研究員 (50822087)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2025年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
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キーワード | ノビチョク加水分解物 / LC-MS/MS / ペンタフルオロベンジル誘導体化 / DABCOによる試薬除去 / 神経剤 / ノビチョク / LC-MS / 誘導体化 / チロシン |
研究開始時の研究の概要 |
神経剤-ヒト血清アルブミンアダクトは、主要なアダクトのひとつであり、その酵素消化によって得られる神経剤-チロシンアダクトの分析は、神経剤曝露の証明法として有効である。しかしこの方法は、神経剤VXをはじめとするV剤や新たな神経剤ノビチョク類に対して検出下限が不足しているという問題があった。そこで申請者は、①アミノ酸の分解反応と気化による夾雑物除去によってチロシンアダクトを精製する前処理法、及び②トリアジン上での芳香族求核置換反応の高い反応性を利用する誘導体化法の開発により、あらゆる神経剤-チロシンアダクトの高感度分析の実現を試みる。
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研究実績の概要 |
本研究の目的は、新たな神経剤A剤(ノビチョク)の使用証明法を開発することです。A剤は、近年海外で発生した暗殺(未遂)事件に関与しており、その使用証明は危機管理上重要な課題です。本研究では、ペンタフルオロベンジル(PFB)誘導体化後の1, 4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)処理を組み合わせた誘導体化液体クロマトグラフィー–タンデム質量分析(LC-MS/MS)法を用いて、血清および尿中のA剤加水分解物および血清中のA剤-ブチリルコリンエステラーゼ(BuChE)付加体の検出を目指しました。 まず、A剤添加血清および尿を調整し、アセトニトリルによる血清および尿のタンパク除去を行い、残渣にアセトン、PFB-Br、トリエチルアミンを加えて反応させました。さらに、DABCOのトルエン溶液を加えて後処理を行い、LC-MS/MSで分析しました。 その結果、DABCOを用いる誘導体化反応の後処理により、血清試料の検出感度が1-2桁向上しました。血清および尿中の6種類のA剤加水分解物について、本法は従来法(HILIC-MS/MS, DMT誘導体化LC-MS/MS)に比べて1-2桁高い検出感度(LOD: 0.1 ng/mL以下)を示しました。 また、従来不明だったPAMによるBuChE活性の回復をEllman’s assayで確認し、A剤-BuChE付加体からの使用証明にも本法が有効であることが分かりました(検出下限: A剤代替物スパイク濃度0.5-2.0 ng/mL)。 この研究により、A剤の使用証明において実用上十分な検出下限を得ることができ、危機管理上の重要な進展をもたらしました。今後は、この検出法をさらに改良し、他の神経剤やその代謝物にも応用可能な包括的な検出法の開発を目指します。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究成果として報告した内容は、本研究課題開始時には想定していなかったものである。具体的には、ノビチョクの新たな誘導体化分析法を開発し、血清および尿中のA剤加水分解物および血清中のA剤-ブチリルコリンエステラーゼ(BuChE)付加体の検出を行った。この成果は「Analytical Chemistry」誌に掲載された(Anal. Chem. 2023, 95, 36, 13674-13682)。この成果は想定外であったが、喫緊の課題である新規神経剤の使用証明において新手法の確立および報告を優先した。なお、新規神経剤の新規誘導体化分析法の開発という点で本研究の目的には合致している。 当初の目的であるチロシンアダクトの分析法についても進展があった。現在、新規神経剤―チロシンの付加物の標準物質を安定供給するための合成法を確立した。この標準物質は合成法が未報告の化合物群である。これにより、今年度からこの標準物質を用いた検討を開始し、この検討結果を基に、当初予定していた新規誘導体化分析法の開発を遂行する計画である。 以上のことから、これまでの進捗は順調であり、今後の研究の展開に向けて必要な基盤が整っていると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、新規神経剤A剤―チロシンアダクトの分析法の確立を行う。具体的には、標準物質合成法の最適化及びスケールアップを実施し、検討に必要な標準物質の安定供給体制を確立する。この内容も論文として報告する予定である。 また、神経剤―チロシンアダクトの新規誘導体化反応検討のための試薬および機器は既に確保しているため、それらを用いた網羅的な検討を行う。この検討により、当初期待していた反応がどの程度進行するか、どのような副反応が生じるか、どのようなマトリックスや試薬がLC-MS分析における妨害となるかを理解する。
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