研究課題/領域番号 |
23K13791
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分35010:高分子化学関連
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
廣瀬 大祐 金沢大学, 物質化学系, 助教 (60806686)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,810千円 (直接経費: 3,700千円、間接経費: 1,110千円)
2025年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
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キーワード | らせん高分子 / キラル / センサー / ポリアセチレン / らせん記憶 |
研究開始時の研究の概要 |
医薬・農薬業界における産業的な需要だけでなく、学術的な面からも簡便で汎用性の高い高精度キラルセンサーの開発は重要です。本申請は、多様な分子キラリティを可視化し得るキラル指示薬の開発を目指します。具体的には、ラセン状構造の二置換ポリアセチレン類が示す『溶媒和認識』と『巻方向可視化』手法を適切に組み合わせることで、真に汎用性の高いキラル指示薬の開発を行います。
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研究実績の概要 |
本申請は、多様な分子キラリティを可視化するためのキラル指示薬の開発を目的としている。当初計画に従い、当該年度においては最初に二置換ポリアセチレン類のラセン巻方向過剰率(hse)と色調との相関について調査を行った。過去に、巻方向を固定して側鎖に異なるキラリティを持つアミンをアミド基を介して導入した際に異なる色調を示すことを報告している、側鎖にカルボキシル基を有するポリ(ジフェニルアセチレン)(PDPA) (PDPA-H)において、側鎖に導入するアミンのキラリティを固定して、巻方向を変えた際に色調が変化するかどうかを評価した。結果として、全くラセンが片寄っていない0%hseと、完全に左巻きおよび右巻きに片寄ったラセン構造とでは、特定の溶媒中で黄色から紫色までの全く異なる色調を示すことを明らかにした。さらに、これらの色調変化は側鎖間に形成される水素結合の状態に依存しており、ポリマーを溶解させる極性溶媒と非極性溶媒の組成を変えることで、そのラセン巻方向に由来した色調を容易に制御できることを見出した。この性質に基づき適切な溶媒組成を選択することで、中程度の光学純度のラセンキラリティの可視化においても、容易に目視でキラリティの差異を識別できることを明らかにした。また、PDPA以外の二置換ポリアセチレンとしてポリアルキルフェニルアセチレン(PAPA)などの合成やそのキロプティカル特性についての調査も行ったが、現在のところPDPAが最もキラル指示薬として適していると判断した。さらに、当初計画では2年目以降に予定していた親水性や疎水性キラルゲストによるラセン誘起・記憶とその巻方向の可視化が実現できることを予備的にではあるが明らかにした。そのため、研究途中ではあるが、得られた一部のデータを基に当該年度中に特許出願を行い、現在論文化にむけてさらなる詳細なデータ収集を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
上述のように、1年目の当初計画に従い二置換ポリアセチレン類の巻方向過剰率と色調の相関関係について調査を行い、PDPAにおける巻方向の可視化およびその制御が可能であることを明らかにした。その色調変化メカニズムや挙動についても精査を行い、側鎖に導入するためのキラルアミンの最適化検討についても予備的に行い、従来用いていた1-フェネチルアミン類よりも色調変化が大きくセンシングに適した構造について新たな知見を得た。さらに、PDPA以外の二置換ポリアセチレン類についても合成およびその物性調査を進めた。このように1年目の計画は予定通りに進行し、当該年度の研究実績概要の項でも示したように、当初は2年目に予定していた親水性キラルゲストによる一方向巻きラセンの構造の誘起、そしてその記憶が可能であることを明らかにし、さらには巻方向の可視化手法と組み合わせることで、用いたキラルサンプルのキラリティ可視化が可能であることを実証した。すなわち、3年計画の本研究のコンセプトを示す最も重要な実験の一つに既に1年目で成功したといえる。具体的にはPDPA-Hのアルカリ金属塩(PDPA-M)がキラルアルコール、アミン、カルボン酸などの水溶液に溶解するため、これを加熱後回収したものを可視化することで、誘起記憶されたラセン巻方向の可視化、つまり用いたキラル源のキラリティの可視化が可能なキラル指示薬として機能することを明らかにした。さらには、側鎖にシリルエーテル基を有するエステル構造を持つPDPA (PDPA-SE)が、キラル炭化水素などの疎水性キラルゲスト中で一方向巻きラセン構造を形成し、フッ素試薬と縮合剤存在下で容易に巻方向の可視化が可能であることを予備的に示した。このように、既に3年目の計画の内容も部分的にではあるが実証しており、その内容を2年前倒しで特許として出願するに至ったことからも(1)を選択した。
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今後の研究の推進方策 |
現段階で当初計画の3年目のメインの内容にまで手をつけており、本研究計画のコンセプトの大枠は既に示されているが、実際にどの程度の基質適用範囲を持つかについては明らかにしておらず、またそのための最適化検討についても不十分である。そのため、当初計画から変更はあるものの、今年度(2年目)は当初計画の2年目を参考に親水性キラルゲストによるラセン誘起および記憶検討を中心に検討を行う。既にキラルアルコール、アミン、カルボン酸については1例以上ずつ程度実施済みであるが、万能キラル可視化技術として主張するにはさらに3例以上ずつ程度の実施例は必要であると考えられるため、基質適用性検討を重点的に進める。併せてスルホン酸塩やアミド化合物などのその他の親水性キラルゲストについても検討を行う。現在、ラセン誘起時には水系溶媒にPDPA-Hを溶解させるためにそのナトリウム塩体(PDPA-Na)を主に用いているが、これらのカウンターカチオンがラセン誘起特性に影響があるかどうかを調査し、ラセン誘起効率を最大化するための最適化検討を行う。ラセン高分子の特徴の一つに不斉増幅特性が知られているが、少ないキラルゲストで一方向巻きのラセン構造を形成するSergeant & Soldier則(SaS)および低光学純度のキラル源から一方向巻きのラセン構造を形成するMajority則 (MRE)が、PDPAでも観測されることを以前に報告している。そのため、今回新たにラセン誘起に用いるキラルゲストについても同様のSaSやMREのような不斉増幅現象が確認されるか、またその最大化のための最適化検討を行う。計画2年目の内容を1年目に進めたために、同様に2年目においても計画が前倒しになる可能性がある。そのため、3年目に計画していた疎水性キラルゲストである炭化水素、エーテル、エステル類のキラル可視化検討についても併せて検討を進める。
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