研究課題/領域番号 |
23K13793
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分35010:高分子化学関連
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
伊藤 峻一郎 京都大学, 地球環境学堂, 助教 (30875711)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2024年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
2023年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
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キーワード | 共役系高分子 / 発光 / ホウ素 / 錯体 / 近赤外 / 室温リン光 / 熱活性化遅延蛍光 / 典型元素錯体 / 光電子物性 / 近赤外発光 |
研究開始時の研究の概要 |
共役系高分子は、主鎖上に広く非局在化したパイ電子を有しており、半導体特性や光吸収・発光特性などの有用な機能を有するため、次世代の有機エレクトロニクスを担う物質として様々な応用展開が検討されている。本研究では、偶数パイ電子・奇数原子からなる特殊な錯体構造を共役系高分子に導入することで、近赤外発光やセンサー材料などの革新的機能材料の創出を目指す。
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研究実績の概要 |
本研究の目的は、近赤外(NIR)発光性や熱活性化遅延蛍光(TADF)、室温リン光(RTP)、外部刺激応答性などの有用な特性をもつ共役系高分子を設計するための分子設計指針を得ることである。とくに、奇数原子上に偶数π電子を有する構造、すなわち「偶数π電子/奇数原子共役系(EE/OA)」に着目する。EE/OAはある原子上において、HOMOとLUMOが重ならないという特徴をもつ。このため、EE/OAは置換基や元素置換によってHOMO/LUMOエネルギーを独立に制御できると期待される。従ってEE/OAは、NIR色素や三重項を経由する発光色素の開発にとって魅力的であるといえる。 本年度は、EE/OAの例として7員環不飽和ケトンであるトロポロンに着目し、このホウ素錯体化による発光特性の付与と共役系高分子化、ならびに置換基修飾による物性制御に取り組んだ。結果として、得られたトロポロンホウ素錯体がEE/OAに特有のHOMOとLUMOの分離を示すことが明らかとなった。さらに、ホウ素錯体化によって7員環のカチオン性が強まり、強い電子受容性を示すことを見出した。この特徴により、ホウ素錯体を共役系高分子に導入することで、近赤外領域で発光する高分子フィルムの作成に成功した。これに加え、置換基修飾によって発光色を大きく変化させられること、RTPやTADF特性を付与できることも見出し、EE/OAに基づく分子設計の有用性が確かめられた。なかでも、NIR発光を示した高分子はより短波長側に発光をもつ高分子よりも高い発光量子収率を示した。これは通常の有機発光材料の挙動と逆の性質であり、たいへん珍しいものである。理論計算による電子状態の評価により、この高分子のフロンティア軌道が縮退しているという特徴がこの性質の起源となっていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初目的としていたNIR発光やTADF、RTPなどの特性を示す分子を、EE/OAに基づいた分子設計によって戦略的に得ることができ、設計戦略の妥当性が確かめられた。さらに、量子化学計算によってこれらの物性発現のメカニズムについても評価を進めたところ、汎用される時間依存密度汎函数理論に基づく計算よりも、完全活性空間自己無撞着場理論を用いたものでよりよい結果が得られることも明らかとなり、今後の更なる分子設計の精緻化につながる成果であると言える。これに加え、当初想定されていなかったが、得られたEE/OA構造を持つ高分子のフロンティア軌道が、高度に縮退していることが示唆されており、これにより、発光特性の制御のみならず、高いキャリア移動度をもつ材料設計にも応用できることが期待される。
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今後の研究の推進方策 |
現在得られている分子の発光量子収率はたかだか10%程度にとどまっており、今後はこの量子収率を向上させるための分子設計指針の確立のため、さらなる誘導体化やことなるEE/OA骨格の探索に取り組んでいく。また、発現の珍しいリン光発光性高分子の合成や、配位元素の変換による物性制御、イオンの識別などの応用へと展開する。これに加え、研究推進によって見出した縮退したフロンティア軌道という分子の新たな特徴を利用して、高キャリア移動度をもつ電界効果トランジスタなどのデバイス応用についても検討を進める。
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