研究課題/領域番号 |
23K13818
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分36020:エネルギー関連化学
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
鎮目 邦彦 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 特任研究員 (00973158)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 3,770千円 (直接経費: 2,900千円、間接経費: 870千円)
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キーワード | 化学蓄熱 / ゼオライト / 分子拡散 / 熱輸送 / サーモリフレクタンス法 / 結晶内細孔 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究の目的は、ゼオライトや一部の金属硫酸塩が有する結晶内細孔における水分子の拡散が熱輸送へ与える影響を明らかにすることである。申請者は仮説として、水分子の拡散が熱輸送を担う場合、拡散の速さの指標である拡散係数の増大に伴って熱伝導率が向上すると予想している。従って主眼となる実験は化合物の水分子の拡散係数を変調した熱伝導率測定であり、温度と加湿度を制御した時間領域サーモリフレクタンス法によってこれを実施する。水分子の挿入量や拡散係数と熱伝導率の関係を調査することで、水分子の拡散が熱輸送へどのように影響するのかを考察する。
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研究実績の概要 |
結晶内に細孔を持つゼオライトや有機金属錯体は、細孔への水分子の挿入・脱離で放熱・蓄熱が可能な化学蓄熱材候補である。化学蓄熱の実用化には高熱出力化が求められ、反応速度の向上と伝熱の促進が必要である。本研究では、結晶内細孔での水拡散が熱輸送に与える影響を明らかにし、新たな伝熱促進手法を提案することを目的とする。 今年度は、化学蓄熱材候補のベータ硫酸ランタンに焦点を当て、水分子の挿入量と熱伝導率の関係を調査した。ベータ硫酸ランタンは前駆体の硫酸ランタン九水和物から生成し、一方向に配向した平板状結晶が多結晶体を形成する。レーザーフラッシュ法により、この平板状結晶の伝熱性が高いことが確認され、組織制御による伝熱性制御の可能性が示唆された。 上記は多結晶体に対しての測定であり、得られた熱拡散率は結晶粒界における界面熱抵抗の影響を含んでいる。微小な単結晶領域の熱伝導率を測定するため、ナノスケールの熱計測手法であるサーモリフレクタンス法による測定を試みた。本手法であれば多結晶体を構成する平板状結晶粒単体の熱伝導率を計測することができる。試料表面のレーザーの反射率変化に基づく測定原理である都合上、前処理としてベータ硫酸ランタン多結晶体の表面を収束イオンビームによって研磨して平面出しを行った。しかし結果として、ベータ硫酸ランタン多結晶体の脆さのために、サーモリフレクタンス法のために十分平滑な表面を得ることはできなかった。 従って当面の測定対象として、元来表面が平滑な単結晶体を用いることとした。同じく結晶内細孔を有し、化学蓄熱の候補材料である輝沸石(ゼオライトの一種)の単結晶についてはサーモリフレクタンス法で信号を適切に取得できることを確認した。また今年度は、温度と湿度を制御した上で計測を実施するための実験セットアップを確立した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は、サーモリフレクタンス法によって細孔性材料の熱計測を実施できた点で進捗があった。試料表面が鏡面であることが求められるサーモリフレクタンス法では、望む材料を測定対象として扱えないことが危惧されたが、単結晶材料を扱うことで測定可能であることが分かった。また、研究室内では実績がなかったため、ガス雰囲気を制御した上でのサーモリフレクタンス測定の実験セットアップを確立し、今後の研究の下地を整えることができた。 一方で現在1種の材料(輝沸石)の測定しか実施できておらず、他の材料をまだ扱えていないために計画より「やや遅れている」と判断した。ベータ硫酸ランタンに対して試みた収束イオンビーム加工による表面出しでは当初の想定ほど平滑な表面が得られず、計測可能な表面を有する材料に対象を限る必要が生じたことが遅れの一因であると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては、輝沸石以外の細孔性結晶材料の調達・合成及びサーモリフレクタンス法による熱計測を進める。それらの中で、水分子の挿入量に対する熱伝導率変化が大きい材料を特定し、更なる調査の対象とする。具体的には、温度-水蒸気分圧-水分子挿入量の平衡関係を熱重量測定によって獲得した上で、水分子の拡散係数を変調した熱伝導率測定を実施する。 本実験系は、水蒸気と細孔中のH2Oが平衡する1成分2相のため、温度と水蒸気分圧が決まればH2O挿入量も一意に決まる。熱重量測定において、温度と流通ガスの水蒸気分圧を任意の一定値に保持し際に平衡する水分子挿入量調査する。これを種々の条件(温度・水蒸気分圧)について実施することで、温度-水蒸気分圧-水分子挿入量の平衡関係を獲得できる。この平衡関係に従ってサーモリフレクタンス測定における温度と湿度を制御すれば、水分子の挿入量を一定に保った上で、拡散係数のみを変調することができる。これにより拡散係数と熱伝導率の相関を調査する予定である。
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