研究課題/領域番号 |
23K13826
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分36020:エネルギー関連化学
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
西久保 綾佑 大阪大学, 大学院工学研究科, 助教 (10909188)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2024年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
2023年度: 2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
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キーワード | 太陽電池 / 光センサー / in-situ計測 / 波長応答 / 非鉛材料 / ペロブスカイト / 光電変換 / デバイス |
研究開始時の研究の概要 |
SbSI等のSb, Bi系複合アニオン材料に注目し、独自の知見に基づく新規成膜手法・計測装置を開発する。これまで応募者は、毒性の高い鉛ペロブスカイト太陽電池や耐久性が低いスズペロブスカイトに代わるSb,Bi系太陽電池の研究をしてきた。しかし、デバイス応用のためには薄膜化が必要であるが、既存手法では結晶性や欠陥、膜平坦性といった膜特性に重大な問題があり、大きく素子性能を損なっていた。さらに、その結晶成長や膜形成のダイナミクスが不明なため、メカニズムに基づく制御が困難であった。そこで、新規成膜手法とin-situ 測定装置を開発し、膜特性制御の指針を確立する。
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研究実績の概要 |
低毒・安価な薄膜太陽電池材料として、Bi, Sb系材料が注目されている。代表者はこれまでに、SbSI(硫化ヨウ化アンチモン)などのカルコハライド材料を容易な塗布・アニールで得られる手法を開発してきた。また、上記のSbSIを含む光電変換素子において、照射波長により出力電圧が可逆応答する新現象(WDPE)を発見し注目を集めた。しかし、粒子径や欠陥量など膜質の問題が多い。そこで、溶液塗布-気固相反応による結晶化から成る2段階プロセスの開発とin-situ結晶化観察の手法確立、さらに波長応答性(WDPE)向上のための研究を行った。 ハロゲン化金属・金属エチルザンテートからなる独自の前駆体溶液を塗布し、ハロゲン化金属ガスを用いた気固相反応により高い結晶性で目的生成物(e.g. SbSI)の成膜に成功した。得られた薄膜は、時間分解マイクロ波伝導度測定において、従来法より10倍以上高い光伝導度信号を示し、電気物性の大幅改善に成功した。変換効率も0.4%程度から1%以上に向上したが、電圧ロスのため依然性能を損なっていた。しかし最近新たな表面処理法を発見し、性能改善の期待が大いにある。 次いで、波長応答機能WDPEの機構解明のため、筑波大学丸本教授との共同で、光照射in-situ電子スピン共鳴による評価を行い、UV照射が電荷再結合を一時的に加速させることを見出した。 続いて、素子構造の新設計により、波長応答性の制御・改善手法も見出した。例えば、正孔輸送層をpoly-triarylamineに変化させると、これまでとは逆の波長-電圧依存性を示すという、非常に興味深い現象が発見された。また、素子内に親水性膜を挿入することで、波長応答速度の向上(数秒→0.2秒程度)にも成功した。既に一部の結果は高インパクト雑誌Adv. Funct. Mater.で発表しており、残りの結果も今後発表予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
まず、気固相反応を用いた新たな成膜・結晶化プロセスを開発したことで、これまでカルコハライド薄膜でネックであった結晶性と膜平坦性の両立を初めて達成したことがあげられる。既存の手法では結晶性や粒径が小さいが被覆性が高い、あるいはその逆の薄膜となっており、そのトレードオフを解決する手法を見出したのは本材料系の発展において非常に重要である。実際に、光伝導度信号の大幅(10倍)向上に成功している。また、本研究を進めるにあたり新開発したin-situ結晶化観察装置も有用である。本装置により結晶化ダイナミクスが明らかになった。特に、不純物の存在やガス濃度が不適切だと、結晶化の初期において多数の空隙が発生することが分かり、結晶化プロセス改善に大きく役立った。 さらに本システムを拡張してスピンコート・アニールの最中にリアルタイムでUV-Vis吸収・発光測定できる装置を新開発し、Bi,Sb系材料だけでなく鉛ペロブスカイトの結晶化過程を明らかにできるようになった。鉛ペロブスカイトの性能は年々上がっており理論限界に近付きつつあるが、結晶化の途中過程と性能との相関に関しては、定性的な説はあるものの漠然としており、品質制御の理論が不十分である。これを見える化するための装置・システムを開発したことも有用性が高い。 そして、波長応答WDPEではESRによる機構調査や、これまでとは逆挙動の新たな波長応答機能を発見し、すでにAdv. Funct. Mater.誌より発表している。それに加え、これに続く論文を新たに書き上げ、サブミット目前の状況である。また、Cs-(Bi,Sb)-I系材料の包括的探索の研究にも取り組み、論文発表に至っている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の推進方策として、まずは気固相反応によるSbSI成膜プロセスの改善を行い、さらに最近発見した表面パッシベーション剤の導入や新たな正孔輸送材料の適用により、光電変換性能の向上に取り組む。現在、疑似太陽光AM1.5Gでの光電変換性能が1%強であるが、電圧ロスや曲線因子のロスが大きいのが問題である。その原因としては、過去の報告や我々の解析、シミュレーション等の知見より、界面再結合が課題だと考えている。そこで、成膜プロセス改善やパッシベーションによる欠陥抑制、より移動度・界面接着性の高い正孔輸送層による界面電荷輸送の改善を図る。 また、SbSIはバンドギャップが2 eV程度と大きく、そもそも太陽光下での理論限界が小さい。そこで、よりバンドギャップが小さく、計算上優れたバンド構造を持つペロブスカイト型Biカルコハライド材料に注目している。本材料は成膜手法自体がないため、その成膜法の開発を通して、Bi系材料の限界突破に挑戦する。 波長応答機能に関しては、親水性ポリマーの素子構造への導入により、光電変換特性を損なわずに波長応答速度を大幅に向上する方法を発見した。しかしながら、その機構については分かっていない部分もあるため、詳細な素子評価や、共同研究でのオペランドESR測定などを駆使して解明していく。同時に、より波長応答性を向上させるための親水性材料探索を実験ベースで行っていく。 さらに、本研究で開発したin-situマルチモーダル計測装置を鉛ペロブスカイトにも展開する。成膜プロセスの変化が核生成・結晶成長の過程にどのように影響し、品質を左右するかというダイナミクスの解明は、ペロブスカイト太陽電池の基礎学理の面で非常に重要である。独自開発した世界で唯一のin-situマルチモーダル評価システムにより明らかにしていく。
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