研究課題/領域番号 |
23K13873
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分38020:応用微生物学関連
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
大城 麦人 九州大学, 農学研究院, 助教 (70962471)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,510千円 (直接経費: 2,700千円、間接経費: 810千円)
2024年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2023年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | 複合微生物 / コミュニティアッセンブリ / 発酵食品 / 微生物間相互作用 / 菌叢形成メカニズム / 発酵 / 乳酸菌 / 酵母 / 数理モデル |
研究開始時の研究の概要 |
乳酸菌と酵母の複合微生物系である自然発酵パン種は、パン類の製造に用いられる伝統的種菌である。自然発酵パン種の微生物叢は興味深く、継代を繰り返すうちに微生物叢が変遷することが知られている。この微生物叢の変遷には規則性があることが報告されているが、スターター菌を添加しない非殺菌開放系発酵でなぜ規則性が生じるのかは不明である。本研究では自然発酵パン種の微生物種間に働く相互作用に着目し、その複合微生物系を個体群集の動態理論によって数理モデル化することで、自然発酵パン種の微生物叢の変遷原理に迫る。本研究によって、伝統食品の発酵など様々な有用複合微生物系の変遷を理解し制御するための学術的基盤の整備を図る。
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研究実績の概要 |
穀物や乳などを原料とした伝統的な発酵食品では、食材中に乳酸菌と酵母の微生物叢が自然に形成されて発酵が自発的に起こる。申請者らのこれまでの研究により、(1)パンの伝統的発酵スターターであるsourdoughはスターター菌を添加せずとも乳酸菌と酵母がこの順に自然増殖すること、そして(2)sourdoughの乳酸菌-酵母コミュニティは発酵に伴って構成メンバーが種レベルで規則的に入れ替わることが示されていた。 本研究ではとくに、乳酸菌がコミュニティを形成したpre-sourdoughへ酵母が進入・増殖して、乳酸菌-酵母コミュニティが形成されるメカニズムを明らかにすることを目的とした。in vitro乳酸菌コミュニティ内で酵母Saccharomyces cerevisiaeが増殖する条件を探索した結果、特定2種の乳酸菌(Limosilactobacillus fermentumとPediococcus pentosaceus)が共存する場合にS. cerevisiaeが増殖し、S. cerevisiaeの菌数がコミュニティ内で高まることが分かった。これらの3種に加えてさらに他の2種が加わった5種コミュニティにおいてもS. cerevisiaeの菌数は高く保たれ、S. cerevisiae、L. fermentum、P. pentosaceusの3種間にはS. cerevisiaeの菌数を維持する何らかの強い関係性が生じていた。 この特定2種の乳酸菌とS. cerevisiaeに働く相互作用を明らかにするため、生態学分野で用いられる一般化Lotka-Volterra方程式を適用して3種間相互作用を解析した結果、それらの3種はじゃんけんゲームに例えられる3すくみの関係にあった。実際のsourdoughにおいてそれら特定2種の乳酸菌が優勢する時期は、酵母の増殖と同時期である。乳酸菌-酵母コミュニティの安定的な形成には、3種間に働く微生物間相互作用が重要な役割を担うという知見を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
3種以上の複合微生物系に働く相互作用を実験的アプローチのみで解明することは難しい。2023年度は乳酸菌-酵母コミュニティに数理モデルを適用することで、自然発酵パン種の微生物叢の変遷に3種間の相互作用が重要であるという新たな知見が得られた。研究成果を複数の学会にて発表し、原著論文にまとめることができたため、おおむね順調であると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度の研究によって、数理モデルの導入が乳酸菌-酵母コミュニティに働く未知の微生物間相互作用の発見に有効であることがわかった。今後も数理モデルを活用して、自然発酵パン種の微生物叢の変遷や形成に関わる重要かつ新しい微生物間相互作用を発掘する。併せて、細菌叢を定量的に一斉解析する手法の開発に着手し、発酵食品などの微生物叢の構造について定量的な知見を得るための基盤を作っていく。
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