研究課題/領域番号 |
23K13874
|
研究種目 |
若手研究
|
配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分38020:応用微生物学関連
|
研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
豊竹 洋佑 立命館大学, 生命科学部, 助教 (60843977)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2024年度: 2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
2023年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
|
キーワード | 酢酸菌 / グリセロリン脂質 / ホスファチジルコリン / ホスファチジルエタノールアミン / 生体膜 |
研究開始時の研究の概要 |
ホスファチジルコリン(PC)やホスファチジルエタノールアミン(PE)といったグリセロリン脂質は、あらゆる生体膜の形成に重要であるが、その極性基依存的な生理機能や機能発現機構に関する知見は少ない。近年、申請者らは、酢酸菌のストレス耐性にPCやPEが寄与することを示唆する新たな現象を見いだした。本研究ではこの点に着目し、酢酸菌を生体膜機能解析の新たなモデルとして提示する。独自に構築した酢酸菌のリン脂質生合成経路改変株の解析から、PCやPEが担う生理機能とその機能発現機構の分子基盤を解明する。
|
研究実績の概要 |
1)酢酸菌はホスファチジルエタノールアミン (PE) をホスファチジルコリン (PC) に変換する酵素、PE-N-メチル基転移酵素 (PmtA) を持つ。我々はこれまでに、PmtA 遺伝子を欠損させると、Acetobacter pasteurianus SKU1108 の PC 合成能が欠失し、本菌のストレス感受性が顕著に増大することを見出だした。この現象を詳細に解析するため、SKU1108 株を用いて、PC 合成量を人為的に調整できる遺伝子改変株を開発した。一部の PC 生産菌が持つ PC 合成酵素 (Pcs) は、外部から取り込んだコリンを基質として、CDP-ジアシルグリセロールから PC を合成する反応を触媒する。そこで遺伝子組換えの手法を応用し、SKU1108 株のゲノム上にある PmtA 遺伝子を緑膿菌由来の Pcs をコードする遺伝子に入れ替えた。得られた遺伝子改変株 (ΔpmtA+pcs 株) は、ネイティブの PmtA 遺伝子プロモーターの制御下で Pcs を発現し、外部添加したコリンの濃度に依存して PC を生産した。 2)SKU1108 株において PmtA 遺伝子を欠損させると、親株と比較して著しい生育不全を示すようになるほか、酢酸感受性が増大する。一方、ΔpmtA+pcs 株は培地にコリンを添加してもしなくても、親株と同等の生育と酢酸耐性能を示した。各株由来の膜リン脂質組成を調べた結果、培地にコリンを添加しなかった場合でも、Pcs 発現株は PC を微量に生産していた。これは、培地の調製に用いた酵母エキスやペプトンに、コリン塩化物といった Pcs の基質が含まれていることが原因と考えられる。本来の量と比べて微量の PC が PmtA 欠損による表現型を一部相補したことから、PC が酢酸菌の増殖やストレス耐性に対して特異的に影響を及ぼすことが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、PC 生合成経路を改変した組換え酢酸菌株の開発に成功した。膜中の PC 含量をコントロールすることで、酢酸菌細胞膜の恒常性維持やストレス応答メカニズムにおける PC の役割をより詳細に調査できるようになった。また、独立した PC 生合成経路を導入したことにより、PE 生合成のみを遺伝学的に操作することが可能となり、酢酸菌における PE の生理機能解析に道を拓いた。培養した酢酸菌株由来の膜脂質から調製したリポソームの膜物性を評価する実験を進めており、PC 欠損が酢酸菌細胞膜の流動性や透過性を低下させることを見出すなど、計画に一部進展が見られた。コリンの分子アナログであるプロパルギルコリン (PCho) の合成に成功し、PCho が SKU1108 株において生理的に機能することを見出すなど、クリックケミストリーの手法を用いて PC と相互作用する膜タンパク質を探索する計画にも進展があった。一方、PCho と同時に細胞に添加することを計画しているジアジリン修飾型 cis-バクセン酸の合成にまだ時間を要していることから、「おおむね順調に進展している。」と評価することが妥当と考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
作成した ΔpmtA+pcs 株を母体として、PE の生合成に関与するホスファチジルセリン (PS) 合成酵素 (PssA) や、PS 脱炭酸酵素 (Psd) をコードする遺伝子を欠損させる。このようにして得られた PE 生合成経路改変株の生育特性やストレス応答を種々の培養条件 (pH の違いや、酢酸、エタノール、その他有機酸の有無など) で調べる。また、膜中の PC や PE 含量の変化した遺伝子改変株のトランスクリプトーム解析とプロテオーム解析を進める。PC と相互作用する膜タンパク質を探索する計画については、ジアジリン修飾型 cis-バクセン酸の合成を進める。でき次第、ΔpmtA+pcs 株への導入を試みる。
|