研究課題/領域番号 |
23K13897
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分38040:生物有機化学関連
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
齋藤 駿 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 講師 (20846117)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | 放線菌 / 二次代謝 / 熱ショック代謝物(HSM) / 生産制御 / 耐熱性 / 休眠遺伝子 / 生合成 |
研究開始時の研究の概要 |
我々は、放線菌を高温で培養すると、常温では生産されない高温培養特異的物質が生産される現象を発見し、このような代謝物を「熱ショック代謝物 (Heat Shock Metabolite : HSM)」と命名した。また、HSMの単離・構造解析を試みたところ、これらの多くは二次代謝物等の小分子化合物であり、これらHSMの中には生産菌の耐熱性を促進する物質が存在していた。本研究では、放線菌が生産するHSMにはどのようなものが存在し (What), なぜ生産されるのか (Why), どのように生産されるのか (How), 解析することで、HSM生産現象の分子基盤の解明を目的とする。
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研究実績の概要 |
今年度は、放線菌が高温培養特異的に生産する「熱ショック代謝物(HSM)」について、どのように生産されるのか(How)、および、なぜ生産されるのか(Why)について解析を試みた。Howについては、微生物ホルモン・SCB1およびResistomycinを対象としているが、特にSCB1について解析を実施した。SCB1の生産は、TetR型転写リプレッサーScbRにより制御されているため、本特異的抗体の作製を行い、Western Blottingにより発現量の評価、免疫沈降実験によりDNA結合能についての評価を開始した。Whyについては、SCB1およびDihydromaniwamycin E(DME)を対象として解析を実施した。SCB1については、耐熱性の獲得には、走査電子顕微鏡による観察および阻害剤による生育に与える影響から、バイオフィルムの関与が示唆されていた。そこで、バイオフィルムの染色や多糖を定量する評価系を確立し、その関与について検証を進めている。また、DMEについては、構造活性相関解析により、DMEが有する唯一の水酸基が活性に重要でないことが判明したため、水酸基部分を磁気ビーズへと固定化し、結合タンパク質の同定を試みている。尚、固定化後の上清をHPLCにより解析し、DMEの大部分検出されないことを確認している。現在、作製した磁気ビーズを使用した種々の条件検討を通じて、DMEに結合するタンパク質の探索を行っている。一方、これまでに見出したHSMが他の放線菌も耐熱化することができるのか評価を試みた。広く研究が行われている放線菌の標準株を対象に評価を試みたが、上記HSM種については現時点で目的の活性は見出されていない。現在は、上記以外のHSM種についても耐熱性を賦与することができるのか検証を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、HSMが、どのように生産されるのか(How)、および、なぜ生産されるのか(Why)について解析を試みるため、主に各種評価系の構築に取り組んできた。SCB1の生産制御機構については、ScbRタンパク質の特異的抗体を作製することに成功し、Western Blottingおよび免疫沈降実験による評価系の構築へと進めることができている。一方、Resistomycin(RM)については、当初の研究計画から変更し、UV変異導入によるRM非生産株の作製を行い、ゲノムリシーケンスにより変異点を同定することで、生産制御機構を解析することとした。しかし、現時点ではRM非生産株の取得には至っていない。また、SCB1については、耐熱性促進機構について解析を進め、バイオフィルムの染色や多糖を定量する評価系を確立し、その関与について評価を進めている。一方、SCB1の制御遺伝子の予測から、clpB遺伝子のバイオフィルムへの関与に着目していたが、阻害剤の添加実験においては良好な結果が得られていない。そのため現在では、他の制御遺伝子の関与についても合わせて解析を進めている。Dihydromaniwamycin E(DME)については当初、生産株における網羅的な遺伝子発現解析を行うことも計画していたが、磁気ビーズを用いた結合タンパク質の同定から実施した。DMEの水酸基部分を磁気ビーズへと固定化し、結合タンパク質のプルダウン実験へと進めている。また、他の放線菌の耐熱化実験では、当初対象としていたHSMについては目的の活性を見出すにはいたっていない。一方、他のHSMの中で、耐熱性を賦与する活性のあるものが見られてきており、現在はその詳細について解析を進めている。以上の進捗状況を鑑み、本研究課題はおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
SCB1の生産制御機構については、ScbRタンパク質の特異的抗体を使用し、Western Blottingにより発現量の評価、免疫沈降実験によりDNA結合能についての評価を試みる。目的の結果が得られた場合には、高温培養によりなぜそのような結果となったのか、背景にある分子基盤について解析を進める。Resistomycinについては、当初の研究計画通り、遺伝子発現量の網羅的な解析に加え、UV変異導入による非生産株の作製にも引き続き取り組み、生産制御機構の解明を試みる。SCB1の耐熱性機構については、今後もフィルム様物質が形成される表現型に着目し解析を進めていく。尚、clpB遺伝子のバイオフィルムへの関与については良好な結果が得られていないため、RNA-seqにより得られている遺伝子発現解析の結果からその関与が予測されるその他の遺伝子についても解析を進めていく。Dihydromaniwamycin E(DME)については、作製した磁気ビーズを使用し引き続き結合タンパク質の同定を行う。結合タンパク質を同定できた場合、その遺伝子の破壊株や過剰発現株を作製することで、高温での生育に与える影響について評価していく。本手法により候補タンパク質の同定に至らない場合は、網羅的な遺伝子発現解析を実施し、そのメカニズムについて解析を試みる。一方、本申請時点では対象としていなかったHSMについて、他の放線菌の耐熱性に与える影響を評価したところ、耐熱性促進活性を示すものが存在した。そのため、そのようなHSM種についてはメカニズム解析や他の放線菌に与える影響についてその詳細を評価していく。
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