研究課題/領域番号 |
23K13983
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分40010:森林科学関連
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研究機関 | 国立研究開発法人森林研究・整備機構 |
研究代表者 |
菅井 徹人 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 研究員 (10909211)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2026年度: 260千円 (直接経費: 200千円、間接経費: 60千円)
2025年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2024年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2023年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
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キーワード | フェノロジー / 越冬戦略 / Rhizo box / 非構造性炭素 / 耐凍性 / 局所適応 / 根箱 / 可溶性糖 / SNP / トドマツ |
研究開始時の研究の概要 |
植物の中で根は低温に対して最も脆弱な器官でありながら、亜寒帯性の常緑針葉樹では根の成長が春に比較的早く始まり、秋は遅くに停止することが知られている。本研究では、この特異的な根の成長パターンに着目し、土壌凍結が生じる雪の少ない地域の集団では、根の成長停止期や、耐凍性が高まる時期が早いと予想した。逆に、地温が比較的維持されやすい雪の多い地域の集団では、根の成長開始時や、耐凍性が低下する時期が早いと予想した。これらの予想を検証するために、同一の環境条件において由来地域が異なるトドマツ苗木を栽培する産地試験を行い、根の成長時期と耐凍性の季節変化のパターン及びその遺伝的変異を解明する。
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研究実績の概要 |
本研究では、少雪地域と多雪地域で育ったトドマツの苗木を使用して、根の成長時期と耐凍性における遺伝的変異を調査することを目的として、積雪下での非破壊的な根端成長の追跡手法の応用や、温度反応性が高い根端の耐凍性実験法の検討に加えて、それらの種内変異に関連する遺伝的背景の解析を行う。初年度では主に実験の立ち上げを行い、条件検討やデータの取得を中心に行った。 実験林苗畑における実験では、Rhizo-boxと呼ばれるアクリル製の根箱を苗木が植栽された土壌中に設置し、苗木から伸長した根端の撮影に成功した。この撮影は初秋から開始され、また積雪下でも継続して行われた。さらに融雪時期からは自動スキャンシステムも導入することで、根端が映る土壌断面の画像の効率的な取得が実現した。 ポット苗木を利用した実験では、小型超低温恒温器を導入し、精密に温度を操作する耐凍性実験の条件検討を実施した。さらに、同じサンプルを利用して耐凍性に関連する生理形質として非構造性炭素を測定するための条件検討も実施した。条件検討の結果、従来の耐凍性指標を評価する実験デザインとは異なるアプローチが必要であることが示唆された。また採取する時期に応じて耐凍性が異なることや、根系の部位によって可溶性糖やデンプンの含有量が異なることも明らかになった。 また、本研究課題が先進ゲノム支援制度に受理されたことから、当初予定していたSNP(一塩基多型)の取得計画を変更し、季節ごとの根端における網羅的な遺伝子発現解析を行うことにした。この実験では、秋から厳冬期にかけて低下する地温に応じた根系の成長停止や耐凍性の向上に関わる分子制御機構を解明することを主な目的とした。苗木の根端の採取を行い、RNA抽出からライブラリ調整、またシーケンスまで実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度では主に実験の立ち上げを行い、条件検討やデータの取得が概ね順調に進展した。従来では成木を対象にして利用されることが多いRhizo-boxだが、実験林苗畑における実験ではboxが設置される土壌条件を調整することで苗木から伸長した根端が無事に撮影できた。また初年度の試験地では十分な降雪量が認められ、積雪条件を含めた冬の環境条件が想定通りとなった。積雪下での撮影を継続して行うことに加えて、自動スキャンシステムの導入にも成功し、土壌断面画像が効率的に取得できる体制を整備できた。耐凍性実験では、導入した小型超低温恒温器を活用することで精密に温度を操作する条件が検討できた。芽は葉などの地上部の器官と比べると根系は低温に弱いことから、制御する温度条件について慎重な検討を重ねた。また、耐凍性実験に利用したサンプルを用いて、非構造性炭素の測定条件についても検討した。芽は葉などの地上部の器官と比べると根系の非構造性炭素の含有量が少ないことから、分析に必要となる試料の調整や測定手法についても慎重に検討した。研究協力者からの支援もあり、マイクロプレートリーダー等を利用することで効率的に測定することができたため、従来法の改良も進んだ。さらに、本研究課題が当初予定していたゲノミック変異の評価を、遺伝子発現の網羅的な評価に変更した。この計画変更に伴い、薬品等のための予算が当初よりも増加したが、所属機関の設備や研究協力者からの支援のもと、無事にRNA抽出からライブラリ調整、またシーケンスが完了した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の実験や解析に関する推進方策として、まずRhizo-boxと自動スキャンシステムを活用して、根端成長の画像取得を継続する。また取得される大量の画像について、従来に手法の通りに手動で解析すると同時に、深層学習を活用したAIによる自動画像解析プログラムを活用する。従来法の解析結果と、AIによる自動解析の結果を比較し、自動解析プログラムの改良にも着手する。小型超低温恒温器を用いた耐凍性実験について、冬から春、また秋から冬にかけた季節が変化するタイミングに着目して実験を継続する。限られた期間でのみ実験できる特性から、確実かつ効率的な実験手法についても検討する。また初年度に利用していたポット苗木に加えて、新たにコンテナで育苗した実生も実験材料として準備し、確実に実験できる体制を整える。網羅的な遺伝子発現解析について、研究協力者と協議の下でシーケンスデータの解析手順を検討する。対象とするトドマツでは、まだ完全なゲノム情報が整備されていないことから、シーケンスデータのマッピングやアノテーション情報の準備を慎重に行いつつ、初秋から厳冬期にかけて季節変化する発現変動遺伝子の探索や発現変動する遺伝子群のネットワーク解析を目指したデータの整備を進める。 次に研究成果の創出に関する推進計画として、2024年6月にドイツで開催予定の国際根研究学会主催第12回国際シンポジウムに参加し、これまでの研究成果と本研究課題の展開について発表を行う。さらに、同様の研究内容に従事している北欧の研究者と積極的に交流を図り、今後の研究展開についても議論を深める。この他にも国内の学会等で研究成果を発表する予定である。また国際学会誌への投稿に向けて、冬から春にかけた耐凍性実験の成果を中心とした論文をまとめる。
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