研究課題/領域番号 |
23K14017
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分40030:水圏生産科学関連
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研究機関 | 国立研究開発法人水産研究・教育機構 |
研究代表者 |
大戸 夢木 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 水産大学校, 助教 (30951488)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2025年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 2,730千円 (直接経費: 2,100千円、間接経費: 630千円)
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キーワード | ニホンウナギ / 降河回遊 / 産卵回遊 / 栄養状態 / 河川環境 / 耳石 / 通し回遊 / 繁殖生態 / 一回繁殖型生物 / 森川海連環 |
研究開始時の研究の概要 |
ニホンウナギは産卵のため, 河川から遠洋の産卵場まで, 数千kmもの距離を絶食しながら泳ぐため, 成熟個体の栄養状態は一生に一度の繁殖の成否に直結する. 近年, ニホンウナギの餌資源として, 水生動物だけでなく陸生動物も重要であることが示されつつあり, 河川流域の森林などの陸域環境が本種の繁殖成功度を大きく左右する可能性が示唆されている. そこで本研究は, 日本全国の河川で採捕された本種の産卵回遊開始個体(銀ウナギ)の栄養状態・成長履歴と, 河岸環境の自然度を表す様々な指数との関係性を調べることで, 「流域の豊かな森林や水辺の環境が本種の成熟時の栄養状態を高める」という仮説を検証する.
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研究実績の概要 |
本研究は,どのような河川環境要因がニホンウナギの成長・成熟を通じて産卵親魚(銀ウナギ)の栄養状態に影響を与えるかを明らかにすることを目的としている.令和5年度は,西日本の12河川から銀ウナギのサンプリングを行い,主に河川間での栄養状態や成長速度の比較を行った.
現時点での成果として,銀ウナギの栄養状態(全長に対する胴回り長)は河川間で大きく異なることがわかった.さらに,特に多くのサンプルが得られた2河川については,耳石の年輪間隔を利用した成長率推定を行い,河川間で年間成長率に顕著な差があることを発見した.これらは,本種の成長・成熟が何らかの河川環境要因に影響されていることを示している.また,その他の有意義な成果として,各河川で採集された銀ウナギの平均栄養状態が低いほど,その性比がオスに偏る傾向が示された.本種の性決定は一部環境依存的になされ,成長が悪い場合にオスとなりやすい可能性がある.前述の結果はこうした性決定戦略を反映していると考えられる.さらにこの結果は,河川環境の悪化による本種個体群の縮小が,性比の偏り(メスの不足)を通じても助長されうることを示唆している.また,銀ウナギは消化管が萎縮し,摂餌意欲が著しく低下するとされてきたが,複数個体から胃内容物が見つかったことも注目に値する.これは,産卵回遊の準備が整った銀化後にも,河川内で栄養同化を継続する場合があることを示唆している.この結果については投稿論文として成果をまとめており,令和6年度または7年度に国際誌へ投稿する予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究初年度である令和5年度の主な目標は,ニホンウナギの産卵親魚である銀ウナギのサンプリングおよび形態の精密測定を行うことであった.実際に令和5年度は,大阪,山口,愛媛,高知,福岡,大分,長崎,宮崎,鹿児島の各府県の合計11河川から187個体を採捕し,このうち155個体については形態計測,安定同位体分析用のサンプル処理,耳石の摘出を行うことができた.
さらに,銀ウナギの栄養状態の河川間比較や,一部のサンプルについては,耳石を用い,河川成育期を通じた成長速度および塩分環境利用履歴の推定を行うことができた.さらに,副産物的な成果として,各河川における平均栄養状態が低いほど性比がオスに偏ることや,銀ウナギが時々摂餌を行うことを発見することができた.
以上より,第一目標である銀ウナギのサンプリングおよび形態計測が順調に進行したこと,さらに一部河川間での栄養状態や成長・成熟パターンの比較解析を行うことができたことから,おおむね順調に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
第二年度目である令和6年度は,引き続き銀ウナギのサンプリングを行うとともに,耳石分析および炭素・窒素安定同位体比を用いた餌料の推定を行う予定である.
サンプリングについては,年差を考慮するため,昨年度までの調査河川からの収集を継続するとともに,地理的要因を考慮するため,サンプルの少ない北日本地域からの収集にも努める.耳石分析については,引き続き令和5年度のサンプルについて年輪間隔の測定による成長速度推定を行う.また,塩分環境利用履歴を明らかにするため,電子プローブマイクロアナライザー (EPMA) による耳石中のSr/Ca比の分析を行う.本分析については,東京大学大気海洋研究所が所有しているEPMAの共同利用申請を行い,これが受理されているため,すぐに分析可能な状況にある.炭素・窒素安定同位体比分析についても同様に分析機器の共同利用申請が受理されており,少なくとも令和5年度のサンプルについては分析を終了させる予定である.さらに,各個体の餌の種類や栄養段階を特定するため,各河川において代表的な餌生物および懸濁有機物のサンプリングを行い,同様の炭素・窒素安定同位体比分析に供する予定である.
成果発表については,9月に実施の2024年度日本魚類学会年会のシンポジウムにおいて,河川成育環境と性比の関係について口頭発表を行う予定である.また,銀ウナギから得られた胃内容物についても国際誌への投稿論文として成果発表を行う予定である.
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