研究課題/領域番号 |
23K14066
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分42010:動物生産科学関連
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
樋口 智香 大阪大学, 大学院医学系研究科, 特別研究員(PD) (00866379)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2024年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
2023年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
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キーワード | ミトコンドリア / mtDNA / 原始卵胞 / 卵母細胞 / 休眠 / 人工多能性幹細胞 |
研究開始時の研究の概要 |
卵子形成過程は胎仔期から始まり、出生時にできた卵子の元である原始卵胞卵が成体の卵巣中に長期に存在し、その一部が排卵に至る卵子へと成長する。一連の卵子形成過程においてミトコンドリア内に存在する変異ミトコンドリアDNA(mtDNA)は排除されると考えられている。しかし、卵子形成過程での解析が困難なことから、その排除機構は不明のままである。本研究では、近年確立された体外での卵細胞と原始卵胞卵の誘導系を用いることで、変異mtDNAの排除機構の解明を試みる。
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研究実績の概要 |
2023年度は原始卵胞卵における変異型mtDNAの排除時期を明らかにすることを目的に、休眠状態の原始卵胞の長期培養系の確立、及び原始卵胞活性化を模した培養系の構築を主に行なった。 (1)原始卵胞卵の長期培養系の確立:これまでに静止状態である原始卵胞の誘導は低酸素濃度(5%O2)と外的圧力(33.3-100 kPa)下での原始卵胞卵誘導系により確立されていたが、長期に休眠を維持した状態で培養することは出来ていなかった。そこで、休眠状態にある原始卵胞卵を培養可能な条件検討を、マウス胎仔卵巣、また野生型mtDNAのみをもつES細胞由来の体外分化誘導した卵母細胞を用いて行った。その結果、100日以上休眠状態を維持して培養可能な系を新たに確立した。得られた原始卵胞卵の休眠状態の評価として、卵母細胞の大きさ、卵母細胞を取り囲む前顆粒膜細胞の形態、また卵母細胞の休止状態では核内に局在することが知られる転写因子FOXO3aの局在を調べた。加えて、培養下において休眠状態にあった原始卵胞が活性化するか検討を行った。活性化可能な培養系に変更して以降、徐々に卵母細胞を取り囲む前顆粒膜細胞の増殖が確認され、さらに卵母細胞が二次卵胞卵母細胞相当の大きさまで成長することが確認された。 (2)原始卵胞卵における変異型mtDNAの割合の測定:上記で確立した培養系を下に、変異型mtDNAをもつiPS細胞由来の原始卵胞卵の培養を試みた。その結果、得られる数は少ないものの、直径20μmより小さいサイズであり、かつStella-tdTomatoの蛍光が確認された卵母細胞を回収することができた。また、変異型mtDNAの割合の測定を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画通り、休眠状態にある原始卵胞を体外培養下において長期に培養可能な系を新たに確立することができた。この系は、本研究課題のみならず、どのようにして長期にわたり休眠状態を維持しているかなど未だ不明な点の多い卵母細胞を研究する上で、有用な実験手法であると考える。しかし、誘導された原始卵胞卵が体内の卵巣中に長期に存在する原始卵胞卵と遺伝子発現などが同じであるかなど、追加の評価を行う必要があると考える。また、新たに確立した系を用いることで、変異型mtDNAをもつiPS細胞から休眠状態にある原始卵胞卵も体外で誘導することが出来た。卵細胞系列の各時期における変異型mtDNAの割合の計測も実施することができ、変異型mtDNAの排除時期についても特定できる結果を得ている。しかし、得られる卵母細胞の数も少ないことから、試行回数を重ねる必要がある。以上のことから、研究の進捗はおおむね順調に進展していると評価している。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度の実績を踏まえ、2024年度は以下の項目を実施する。 (1)原始卵胞卵の長期培養系の確立:これまでに確立できた原始卵胞卵の長期培養系において、休眠状態にある卵母細胞の遺伝子発現が、体内に存在する卵母細胞と違いがないかについては不明なままである。そこで、長期培養系により得られた卵母細胞とマウス卵巣由来の卵母細胞の遺伝子発現をRNAシークエンス解析により比較解析を、当初の研究計画に追加して行う。 (2)変異型mtDNAの排除制御機構の特定:変異型mtDNAを排除する機構として、(A)変異型mtDNAの排除、または(B)変異型mtDNAをもつミトコンドリアの排除が考えられる。これらを特定するために以下の解析を行う。(A) 変異型mtDNAの排除:変異型mtDNA排除の可能性として、mtDNAの複製時に優先的に野生型mtDNAが複製される事による変異型mtDNAの割合の減少が考えられる。野生型と変異型のどちらのmtDNAが優先的に複製されているかを明らかにする。複製に違いが認められない場合は(B)の可能性を追求する。(B) 変異型mtDNAをもつミトコンドリアの排除:変異型mtDNAをもつミトコンドリア内では、変異型mtDNAにコードされたタンパク質の減少により、ミトコンドリア複合体に障害・活性の低下を引き起こすことになる。そのため、変異型mtDNAをもつミトコンドリアは機能不良として感知され、マイトファジーにより排除される可能性がある。そこで、原始卵胞卵においてマイトファジー因子の動態をライブイメージングまたは免疫染色により観察する。これらの解析により、変異型mtDNAの排除機構を特定する。
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