研究課題/領域番号 |
23K14067
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分42010:動物生産科学関連
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
川口 芙岐 神戸大学, 農学研究科, 助教 (00879968)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2025年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
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キーワード | 黒毛和種 / 脂肪酸組成 / 責任多型 / 育種改良 / 動物遺伝育種 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究課題では、ウシの筋肉内における脂肪酸代謝機構の一端の解明を試みる。具体的には黒毛和種の脂肪酸組成データおよびDNAサンプルを用いて、統計解析に基づく候補領域の絞り込みと多型の影響に関する生化学的検証により、遺伝子の機能に影響を及ぼす多型の追究を進める。また、複数の黒毛和種集団における多型の効果に関する普遍性の検証によって脂肪酸代謝に対する当該遺伝子の関与について裏付け、さらに過去の研究成果を踏まえた考察から脂肪酸代謝機構における役割を説明することで新たな知見として提唱する。本研究課題の成果は飽和脂肪酸含有率の低い牛肉生産に貢献し、ヒトの様々な疾病に対するリスクの低下が期待される。
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研究実績の概要 |
本年度、兵庫県黒毛和種の全ゲノムリシーケンスデータを用い、96候補SNPsの選出と432頭集団におけるバイオマークシステムを用いたそれらの遺伝子型判定を実施した。加えて、統計解析を実施し、脂肪酸組成との関連を調査したところ、候補領域としていた35~47 Mbp全域に渡って比較的低いp値を示すSNPが観察された。具体的に、上位15 SNPsの選出による候補領域の絞り込みも試みたが、それら15 SNPsは領域内全体に分散しており、当初の領域より狭く有力な候補領域への絞り込みはなされなかった。しかし、現候補領域全体が候補となるべき領域であることが裏付けられ、各遺伝子の機能等調査に重点を置き、その情報に基づいて有力候補となる遺伝子の抽出を進める方針を中心とすべきであることが示された。 遺伝子の機能調査においては、NCBIやDAVID、GeneCardsなどいくつかのデータベースに登録されている各遺伝子の機能に関わる情報および先行研究から論文によって報告されている情報に基づいて、脂肪酸代謝に関わる可能性について精査した。候補領域内には約300遺伝子が位置していたが、ここでは、全ゲノムリシーケンス解析により各遺伝子内に検出されいている多型について多型間の連鎖不平衡や遺伝子内での位置に基づき、比較的易しい基準で候補多型の有無を判断し、候補多型を有する79遺伝子のみ調査対象とした。その結果、HER2、BRCA1、MLXの3遺伝子について、脂肪酸の合成や不飽和化の制御の一端を担っていると考えられ、有力な候補遺伝子であると考えられた。 本年度の成果から、候補領域の絞り込みは難しかったものの、遺伝子機能の調査によって有力な遺伝子の特定に至ったという点で責任多型の同定に大きな進展が得られた。今後、特にそれら3遺伝子内の多型に焦点を当てた分析を進め、責任多型の同定を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
バイオマークシステムを用いた96 SNPsの遺伝子型判定が滞りなく実施され、形質との関連解析についても支障なく進められた。ただし計画当初には、幾度かの遺伝子型判定を繰り返すことで調査対象とすべき候補領域の絞り込みを進める算段であったが、結果的に想定していたよりも広い範囲で脂肪酸組成と強く関連する多型が検出されてしまったことから、現候補領域全体を重要な領域であるものとして扱うことにした。そのため、遺伝子型判定については96 SNPsの1セットのみに留めた。また一方で、データベースなどを用いた遺伝子の機能調査については当初の計画以上に時間と労力を割いたが、その成果として3つの有力な候補遺伝子が検出された。 いずれの計画についても、計画段階の時点からその進捗によってある程度の調整が必要となることが想定されていたが、ここまでの結果はその想定の範囲内であった。理想としてはさらなる候補領域の絞り込みがなされる予定であったが、現時点では絞り込みが難しいと判断し遺伝子の機能調査に注力したことで、初年度として想定していた、いくつかの有力候補遺伝子の検出にまで到達することができた。計画とは多少異なる経緯を経たものの、進捗状況としては概ね計画通りである。
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今後の研究の推進方策 |
前述の通り、現在、有力な候補遺伝子として、HER2、BRCA1、MLXの3遺伝子の検出に成功している。今後、まずはそれら3遺伝子内の遺伝子多型について、遺伝子型判定および統計解析による脂肪酸組成との関連を調査する予定である。ここでは特に、各遺伝子内の多型の位置やアミノ酸置換の有無、周囲の多型との連鎖不平衡の程度などを考慮したうえで、網羅的に検証を進める。具体的には、各遺伝子内には20~30程度の多型が検出されており、アミノ酸置換や発現調節に関わる遺伝子座に位置する多型で、強い連鎖不平衡の関係にある各多型群から1多型ずつ検証する計画である。遺伝子型判定は兵庫県黒毛和種432頭を対象とし、方法としてはKASP法を試みるが、多型周辺の配列によっては判定が難しい場合があるため、その場合にはTaqMan法やPCR-RFLP法を試みる。さらに統計解析として分散分析および多重検定を実施し、脂肪酸組成との関連を調査する。また同時に、それら3遺伝子の機能を完全に総括できる程度にまで把握を進め、各遺伝子が脂肪酸組成を制御する作用機序について仮説を立てる。以上の関連解析結果や機能情報、立案された仮設を踏まえ、各多型の責任多型としての可能性について精査する。 また本研究課題の後半には、責任多型として有力であると考えられた多型の作用について、in vitroでの検証を順に進める計画である。先行研究の例を参考に、検証方法を多型ごとに検討し、実施する。到達目標地点に変更はなく、以上の結果を総括し、さらにこれまでに解明してきた脂肪酸組成の制御に関与する遺伝子群とともに、ウシ脂肪酸組成代謝機構の解明を目指す。
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