研究課題/領域番号 |
23K14139
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分43020:構造生物化学関連
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
田口 真彦 東北大学, 多元物質科学研究所, 助教 (60879930)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2025年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | 分子シミュレーション / 光活性化アデニル酸シクラーゼ / BLUF ドメイン / ハイブリッド QM/MM 法 / 自由エネルギー計算 |
研究開始時の研究の概要 |
OaPAC は光駆動型 cAMP 合成酵素であり, 光を用いた cAMP 濃度変調により細胞機能を制御できる. X 線構造解析により分子構造が明らかにされたが, 光受容ドメインにおける光化学反応を決定するには至っておらず, また, 光受容ドメインが酵素ドメインをどのような構造変化の伝搬により制御しているかといった動的描像も捉えられていない. 本研究では QM/MM ハイブリッド自由エネルギー法を用いて, まず光化学反応機構を決定する. 次に, ドメイン間をまたぐ動的な構造変化描像を明らかにし, OaPAC の機能発現機構を解明する. さらに複合的な光制御の実現に向けた色変異体の設計を目指す.
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研究実績の概要 |
本研究は、光活性化アデニル酸シクラーゼ OaPAC を対象に、ハイブリッド分子シミュレーションを用いて、(1) 光受容ドメイン BLUF の光化学反応エネルギープロファイル、(2) ドメイン間を跨いだ構造伝搬による酵素反応制御機構、を明らかにすることを目的とする。 今年度は、主に (1) について研究を行った。BLUF の光化学反応において、発色団 FMN およびその周囲の残基である FMN-Ty6-Gln48 が重要であることがわかっている。分光学実験から、明状態になると Gln48 の側鎖はエノール型になることが示唆されている。しかし、さらに側鎖が回転するかどうかは議論が続いており、構造生物学実験からだけでは帰属には至っていない。そこで本研究では、BLUF ドメインに対し、ハイブリッド QM/MM 自由エネルギー法を用いて、エノール化した Gln48 の側鎖が回転するかどうかの 2 種類の明状態の構造をモデリングし、自由エネルギー摂動法により自由エネルギー差を評価した。 明状態として、エノール化し、さらに回転した Gln48 の側鎖構造が自由エネルギー的に最もらしいことが明らかとなった。得られた暗状態と明状態のシミュレーションモデルに対して、吸収波長の評価を行い、構造の妥当性を検証した。また、暗状態と明状態に対しても同様に自由エネルギー差を評価・解析したところ、光受容によるエネルギーの大半は周囲の環境(タンパク質や溶媒)に貯蔵されることを明らかにした。この結果は、光活性化シグナリング状態中、不安定な Gln48 のエノール化状態が FMN や Tyr6 だけでなく、周囲の環境全体により安定化される機構を示唆していると考えられる。また、得られたモデルに対して構造解析を行うことにより、光活性化初期過程において重要となる残基ペア相互作用を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ハイブリッド分子シミュレーションを用いて、光受容ドメイン BLUF の光化学反応エネルギープロファイルの評価が完了し、自由エネルギー的に明状態を帰属することができた。また、得られたシミュレーションモデルに対して、構造解析を行うことで、光活性化初期過程において重要となる残基ペア相互作用を明らかにした。これらを論文にまとめ、現在投稿中である。 また、本研究課題の目的の 2 つ目に相当する、ドメイン間を跨いだ構造伝搬による酵素反応制御機構に対しても、全長 OaPAC のシミュレーションモデルを構築し、計算を行い始めている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度行った、ハイブリッド自由エネルギー法を用いてモデリングした暗状態および明状態の BLUF ドメインの光活性化中心 FMN-Ty6-Gln48 の座標データと電荷パラメータを、全長 OaPAC の BLUF 二量体のそれぞれの光活性化中心に埋め込んだシミュレーションを行うことにより、ドメイン間を跨いだ構造伝搬による酵素反応制御機構を明らかにする。また、実験的に明らかになっている酵素反応を失う変異体に対してもシミュレーションを行うことにより、ドメイン間構造変化について野生型との比較解析を行う。これにより、光活性化アデニル酸シクラーゼにおける光に駆動される構造伝搬による酵素反応制御機構を解明する。
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