研究課題/領域番号 |
23K14218
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分44040:形態および構造関連
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
澁田 未央 (笠松未央) 山形大学, 理学部, 助教 (30849790)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
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キーワード | 精核 / 転写制御 / 花粉 / クロマチン構造 / RNAポリメラーゼII / 転写活性領域 / シロイヌナズナ / テッポウユリ |
研究開始時の研究の概要 |
動物の精子核では転写が抑制されるのに対し、シロイヌナズナの精核は転写活性が大規模に低下する一方で、一部の領域で維持されることが示唆された。そこで、転写の大規模抑制と部分維持を両立する制御メカニズムの解明を目指し、シロイヌナズナの精核におけるRNAポリメラーゼII(PolII)機能に着目した研究を実施する。転写活性はゲノム構造や転写因子以外にもPolII自体の制御による影響を受け、PolIIのC末端領(CTD)修飾制御因子の変異は稔性に影響を与える。PolIIイメージングによる構造学的解析、PolII-CTD修飾制御因子に着目した分子生物学的解析から精核における転写制御機構を明らかにする。
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研究実績の概要 |
動物の精子核はヒストンのプロタミン置換によって凝集した形態をとり、転写は高度に抑制される。一方、プロタミンを持たない被子植物の精核における転写状態は、活性状態であると考えられていたが、詳細な解析はなされていなかった。シロイヌナズナの花粉核における転写活性型RNAポリメラーゼII(PolII)の観察を行なった結果、精核の転写は他の細胞核に比べて大規模に抑制された状態にあり、加えて一部の核領域では転写活性が維持されていることを明らかにした。転写の大規模抑制と部分維持を両立する制御メカニズムの解明を目指し、シロイヌナズナの精核におけるPolII機能に着目した研究に取り組んだ。 シロイヌナズナのPolIIのC末端領域(CTD)の修飾制御因子の変異は雄性不稔を引き起こす。PolII-CTD修飾やPolII-CTD修飾因子のイメージングによる構造学的解析、およびPolII-CTD修飾制御因子変異体を用いた分子生物学的解析からシロイヌナズナ精核における転写の大規模抑制と部分維持を両立する制御メカニズムを明らかにする。 シロイヌナズナで見出した特徴的な転写活性状態がどのようなタイムスケールで、どのようなで領域で構築されるのかを明らかにするために、核サイズが大きく詳細な構造観察が可能なテッポウユリも実験に取り入れた。テッポウユリ花粉の観察から、転写の大規模な抑制は花粉の成熟に伴って進行し、乾燥下では低活性状態が維持され、吸水後に速やかに回復することが明らかになった。また乾燥花粉に特徴的な転写活性領域は、高度に凝集したクロマチン間や、クロマチン上の低密度領域に局在し、特定のヒストン修飾と共局在することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
シロイヌナズナの花粉核における転写活性型PolIIの観察を行い、精核の転写は栄養核に比べて大規模に抑制された状態にあり、一方で一部の核領域では転写活性が維持された特殊な状態にあることを示した。加えて、RNAシークエンス解析から、特殊な転写活性状態の構築に、PolII-CTDのリン酸化修飾が関与することが示唆された。これらの成果をまとめ、CYTOLOGIA誌、PLANT MORPHOLOGY誌に投稿し、受理された。 シロイヌナズナのPolII-CTDのリン酸化修飾制御因子の変異は雄性不稔を引き起こす。PolII-CTD修飾やPolII-CTD修飾因子のイメージングによる構造学的解析、およびPolII-CTD修飾制御因子変異体を用いた分子生物学的解析からシロイヌナズナ精核における転写の大規模抑制と部分維持を両立する制御メカニズムの解明を目指し、変異体やレポーターラインの準備を進めた。 花粉の発生・受精プロセスにおける転写活性ダイナミクスを明らかにするために、核サイズが大きく詳細な構造観察が容易なテッポウユリを実験に取り入れた。まず、テッポウユリの雄原細胞核と栄養核の単離方法、免疫染色手法を確立した。PolII-CTD修飾のうち、転写活性状態を示すリン酸化修飾(Ser2P)を免疫染色によって可視化した。その結果、転写の大規模な抑制は花粉の成熟に伴って進行し、乾燥下では低活性状態が維持され、そして花粉管発芽・伸長時は速やかに再活性化されることが明らかになった。また、テッポウユリの雄原細胞核では、成熟過程でクロマチンが高度に凝集し、M期の前期に類似した構造をとることが示された。さらに、成熟花粉に特徴的な限定された転写活性領域は、高度に凝集したクロマチン間や、クロマチン上のDNA低密度領域に局在し、特定のヒストン修飾と共局在することが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
シロイヌナズナ精核における特殊な転写活性状態の構築・維持にPolII-CTD修飾はどのように寄与するのかを明らかにするために、PolII-CTD修飾酵素CPL1、CPL2機能欠損変異体および過剰発現体における転写活性ダイナミクスや核構造の観察を行う。転写活性はSer2Pによって可視化し、免疫染色およびSer2Pに特異的な生体内抗体Modification-specific intracellular antibody (Ser2P-Mintbody)を利用する。また、1年目の構造観察から限定化された転写活性領域とヒストン修飾H3K9acと共局在が示唆されたため、H3K9acに特異的な生体内抗体(H3K9ac-Mintbody)も活用する。また、単離精細胞を用いたRNA-seqデータ、ChIP-seqデータから精核における発現遺伝子グループに特徴的なヒストン修飾、ヒストンバリアントをさらに探索する。候補因子について、ヒストン修飾阻害剤や修飾酵素変異体、ヒストンバリアント変異体を用いた観察を実施し、精核における転写領域の限定化メカニズムを明らかにする。 テッポウユリの花粉を用いた観察から、転写活性領域は花粉の成熟過程で限定化され、花粉管発芽・伸長プロセスで回復することを明らかにした。これらの研究成果をまとめ、論文投稿を行う。一方で、様々な植物種を用いた先行研究は、花粉管発芽・伸長には転写活性が不要であることを示唆している。それではなぜ花粉管発芽・伸長プロセスにおいて転写活性はダイナミックに変動するのだろうか。テッポウユリ、シロイヌナズナ花粉に転写阻害剤処理を行い、それぞれの表現型を比較することで、転写活性を回復させる生物学的意義の解明を目指す。
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