研究課題/領域番号 |
23K14271
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分45040:生態学および環境学関連
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研究機関 | 国立研究開発法人森林研究・整備機構 |
研究代表者 |
矢口 甫 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 森林総研特別研究員 (10803380)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2024年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | アリ / 繁殖分業 / 不妊カースト / 遺伝子発現 / 表現型多型 / 卵巣形成 |
研究開始時の研究の概要 |
卵巣多型を生み出す仕組みは真社会性を支える普遍的な機構である.ミツバチや一部のアリにおける先行研究は,女王とワーカーに見られる卵巣サイズの違いをもたらす遺伝子レベルの仕組みを明らかにしてきた .一方,いくつかの派生的なグループのワーカーはそもそも卵巣を持っていないが,こうした種を対象に卵巣形成パターンを捉えた研究例は見当たらない.本研究は,卵巣をもたないワーカーが存在するツヤオオズアリを用いる.幼虫から蛹に至るまでの独自の観察法を元に,前蛹期における繁殖形質の形成をカースト間で比較する.分子発生アプローチに注力し,繁殖分業の維持・進化を理解するための試金石としたい.
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研究実績の概要 |
オオズアリ属に含まれる種の巣には,繁殖を担う女王の他,利他的に振る舞うワーカーに二型が存在する.体サイズが比較的に小さい個体をマイナーワーカーといい,体サイズが著しく大きい個体をメジャーワーカーという.体サイズは異なるものの,両ワーカーともに卵巣そのものを持っておらず,卵を産むことができない.同種内に見られる卵巣の有無を生み出す仕組みは繁殖分業の包括的な理解に極めて重要であるにもかかわらず,発生学的な説明は明らかに不足している.本研究課題では,南西諸島に分布するツヤオオズアリを用いて,女王とワーカーの後胚発生過程における繁殖形質の形成メカニズムの違いを明らかにすることを目指している.2023年度は,マイナーワーカーとメジャーワーカーの各前蛹を対象に実施した遺伝子発現データの一部を解析した.RNA-seqデータを解析したところ,マイナーワーカーで高発現する遺伝子群には神経ネットワークを形成するための遺伝子群が多いことがわかった.マイナーワーカーは巣内の様々な仕事を担っており,これら遺伝子の発現と多様なタスクは関連している可能性がある.一方,メジャーワーカーで高発現する遺伝子群には器官形成や筋肉発達にかかわる遺伝子群が含まれており,体サイズの大きさと関連している可能性が高い.興味深いこととして,メジャーワーカーでは生殖器形成やオス分化に関与する遺伝子群が高発現していた.メジャーワーカーはメスであり卵巣を持たないことを踏まえ,これらの遺伝子が意味するところを鋭意検証中である.今後,ワーカーそれぞれで高発現していた遺伝子群の機能・局在解析を念頭に候補遺伝子を慎重にスクリーニングする予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ツヤオオズアリのマイナーワーカーとメジャーワーカーを対象に遺伝子発現を実施したことで,発生過程で高発現する遺伝子をリストアップすることができた.そのリストには,メジャーワーカーはメスであり卵巣を持たないにもかかわらず,生殖器形成やオス分化にかかわる遺伝子が含まれていた.これらのデータを慎重に整理し,それらを纏めて投稿論文として準備する予定である.また,各ワーカーを特徴づける形質について,発生過程における遺伝子リストを得られたことは,次の研究ステップに移るための重要な基盤として非常に価値があると判断している.今後は,実験材料を大量に用意した後に詳細な遺伝子解析に着手する予定である.以上から,期待以上の成果をあげることができたと判断している.
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今後の研究の推進方策 |
ツヤオオズアリにおける卵巣多型の発生機構を明らかにするために遺伝子解析を強力に推し進めたところ,メジャーワーカーにおいてオス分化にかかわる遺伝子群が高発現するという思いがけない結果を得た.当初の研究計画案ではオスを外していたが,今後はオスを解析対象に加えることを検討する.
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