研究課題/領域番号 |
23K14347
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分47030:薬系衛生および生物化学関連
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研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
鈴木 美希 静岡県立大学, 薬学部, 助教 (00740200)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 機械受容イオンチャネル / パーキンソン病 / 亜鉛イオン / 黒質神経細胞死 / PIEZO1 / TRPM7 / 神経変性疾患 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では「機械受容イオンチャネル活性化による神経細胞内外の亜鉛イオン分布の変化が、神経変性の病態を決定する」との仮説を実証し、パーキンソン病に対する新規治療法の構築を目指す。シナプスに存在するAMPA型グルタミン酸受容体は神経伝達の中核を担い、その機能破綻はパーキンソン病等に寄与する。これまでの検討から、神経変性疾患の発症抑制には、神経細胞内外の亜鉛イオン分布の変化を制御する必要があると考えた。 本研究では膜張力などの微小な環境変化を感知する機械受容イオンチャネルに着目し「機械受容イオンチャネルが神経細胞内外の亜鉛イオン分布を制御し神経変性を抑制する」ことをパーキンソン病モデル動物で実証する。
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研究実績の概要 |
パーキンソン病は、黒質-線条体間のドパミン神経細胞死を病理学的特徴とする神経変性疾患である。これまでに神経変性疾患の発症抑制には、AMPA受容体を介した神経細胞内外の亜鉛イオン分布の変化を制御することが重要である可能性が示された。機械受容イオンチャネルは細胞膜への物理的刺激により活性化されるイオンチャネルであり、脳・神経系に発現し亜鉛イオン透過性であること、神経突起の伸長などに重要であることが知られている。本研究では「機械受容イオンチャネル活性化による神経細胞内外の亜鉛イオン分布の変化が、神経変性の病態を決定する」との仮説を実証し、パーキンソン病に対する新規治療法の構築を目指した。 本年度は、C57BL/6J雄性マウス(8-12週齢)の右側黒質緻密部に6-OHDAを投与し、2週間後にドパミン神経細胞のマーカーであるチロシンヒドロキシラーゼ(TH)染色によりドパミン神経細胞死を評価したところ、2週間後に濃度依存的なドパミン神経細胞死が観察された。TRPM7非特異的阻害剤(FTY720) を6-OHDAと同時に黒質に投与したところ、ドパミン神経細胞死が抑制された。またPIEZO1特異的活性化剤(Yoda1)を6-OHDAと同時に黒質に投与した場合においても、ドパミン神経細胞死が抑制された。すなわち6-OHDAによるドパミン神経細胞死に対してTRPM7活性化が寄与する一方で、PIEZO1の活性化は神経細胞死を抑制することが示唆された。 PIEZO1にはイオンチャネル活性が増大する機能獲得型変異(GOF)が報告されているため、当該変異を持つマウスをi-GONAD法を用いて作出し、成功した(Piezo1 GOF/WT)。改変に成功したマウスの黒質に6-OHDAを投与し、ドパミン神経細胞死を評価したところ、2週間後のドパミン神経細胞死が有意に抑制された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
パーキンソン病の発症機構を明らかにするため、物理的刺激により活性化され、脳・神経系に発現する機械受容イオンチャネルに着目し、黒質へ6-OHDAを投与し神経細胞死を誘発するモデルを用いて解析した。 神経細胞での機能が主に報告されているTRPM7については黒質での活性化阻害により神経細胞死が回避されたことから、黒質のドパミン神経において、TRPM7の活性化による亜鉛イオンなどの流入が神経細胞死に寄与する可能性が示された。またPIEZO1に関しては、グリア細胞への局在が報告されており、Yoda1によるPIEZO1の活性化で神経細胞死が回避される結果となった。機械受容イオンチャネルの中でも、局在の違い等によりパーキンソン病発症に対する寄与が大きく異なる可能性が示された。 さらに、PIEZO1のGOFマウスを作出し、ヘテロマウスで検討したところ、神経細胞死を抑制することが示された。改変マウスを用いた検討においても、PIEZO1の活性化はパーキンソン病モデルにおける黒質の細胞死を抑制することが示された。以上のことから、順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
PIEZO1-GOFのホモマウス(Piezo1 GOF/GOF)を作出し、6-OHDAによる神経細胞死に対する影響を解析する。TH染色だけでなく、Fluoro-Jade Cを用いた神経変性の染色をも行い多方面から解析する。本年度の結果から、TRPM7は神経細胞で活性化することで細部内への亜鉛イオン取り込みによる神経細胞死を誘発する機構、PIEZO1はグリア細胞での活性化を介して神経細胞への亜鉛イオン等の取り込みを制限し神経細胞死を抑制する機構が想定された。そこで、これらの機構を明らかにするため、機械受容イオンチャネルPIEZO1やTRPM7の局在解析、6-OHDA投与後の発現変動の解析を開始している。また、パーキンソン病は病態の悪化に伴い、認知機能も障害されるため、PIEZO1の活性化は認知機能低下の改善にも寄与する可能性が考えられる。そこで改変マウスやYoda1を用いて、パーキンソン病モデルにおける記憶障害に対する機械受容イオンチャネルの関与を併せて検討する。
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