研究課題/領域番号 |
23K14467
|
研究種目 |
若手研究
|
配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分49020:人体病理学関連
|
研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
後藤 慎太郎 弘前大学, 医学研究科, 助教 (00826901)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2024年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
|
キーワード | 膵癌 / 癌微小環境 / 癌関連線維芽細胞 / 時計遺伝子 / 放射線画像診断 / 術前化学療法 / 治療効果判定 |
研究開始時の研究の概要 |
近年,膵癌の術前化学療法の病理学的効果判定が課題となっている。造影ダイナミックCTから膵癌の組織組成を予測できることを明らかにし,化学療法前後の造影ダイナミックCTを比較することで有効な効果判定が可能となることが期待される。一方,時計遺伝子DECは癌微小環境に関与していることが示唆されており,癌の化学療法耐性にも何らかの役割を果たしていることが予測される。そこで本研究では,DEC遺伝子による制御を受けた癌微小環境を背景とした膵癌の化学療法耐性の非侵襲的な評価法の確立を目的とし,癌微小環境に基づいた効果的な膵癌治療法の構築を目指す。
|
研究実績の概要 |
これまで我々は2019年から2021年度にかけて、腫瘍の造影効果は組織学的特性に影響されているという予想のもと、膵癌を対象に腫瘍造影効果と組織学的特性との関連性を検証した。一般的に腫瘍の造影効果は、腫瘍内の血管の分布に影響されると考えられたきた。我々は、血管だけではなく、癌の間質の組織学的特性にも造影効果が影響されているのではないかと仮説を立て、病理検体を用いて造影効果と組織学的特性との関連を詳細に検討した。その結果、造影ダイナミックCTにおける造影曲線の勾配が、血管密度に加え、癌間質の線維芽細胞(癌関連線維芽細胞)に大きく影響されていることを明らかにした(Goto S, et al. Oncol Lett. 2021 Apr;21(4):276)。この結果は、曲線曲線が腫瘍内の細胞組成を反映している可能性があり、術前化学療法の組織学的効果判定を造影曲線の形状変化から評価できる可能性を示唆するものであった。 2022年度から2023年度にかけては、術前化学療法を施行し外科切除に至った膵癌症例において、化学療法の効果が十分であった群(high-responder)と不十分であった群(low-responder)における造影曲線の差異を検討した結果、high-responderはlow-reponderに比べ、造影中期相の勾配が有意に減少していることが明らかとなった。この原因を病理組織学的に検討した結果、化学療法の影響により、癌細胞の消失だけではなく、癌間質にも組織学的に癌関連線維芽細胞の著明な減少と膠原線維の増生という変化が生じており、造影剤が分布する癌間質の組織学的変化が化学療法前後の造影曲線の形状変化に影響を与えている可能性が示唆された。以上までの結果を論文(Goto S, et al. Oncol Rep. 2023 Mar;49(3):61)として発表した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
膵癌術前化学療法の治療効果判定において、組織学的治療効果が高い群と低い群との間に、化学療法前後の腫瘍造影効果の経時変化(造影曲線)の形状に有意な違いを見出した。具体的には、造影中期相の勾配が、治療効果が高い群では有意に低下していることを明らかにした。さらにその原因として、化学療法により癌間質が、癌関連線維芽細胞の減少と膠原線維の増加という組織学的変化を経ており、造影剤が分布する間質という領域がこのような組織学的変化を受けることにより、造影効果が変化するという機序が示唆された。このように、化学療法前後の造影曲線の経時変化が、組織学的治療効果判定を予測する有用な手段として利用できる可能性が示唆され、この結果を論文として公表するに至った(Goto S, et al. Oncol Rep. 2023 Mar;49(3):61)。 一方、上記の研究の過程で、いくつかの解決すべき課題点も示された。具体的には、腫瘍の画像評価において、特に化学療法後の腫瘍は、画像上、腫瘍の範囲が不明瞭になったり、腫瘍内の造影効果に不均一性がみられ、客観的な画像評価が困難である症例が存在するという課題がある。本研究では、時計遺伝子に関する分子生物学的解析の作業が残されているが、現時点では上記の画像評価の課題の解決が優先事項と判断し、分子生物学的解析の進捗は当初よりも遅くなる見込みである。
|
今後の研究の推進方策 |
膵癌の術前化学療法の治療効果判定と、化学療法前後の造影曲線の形状変化との関連を検討するにあたり、画像評価における課題の解決が求められている。具体的には、化学療法を受けた腫瘍は、画像上、腫瘍の範囲や輪郭が不明瞭となったり、観察者の肉眼による読影では視認困難な病変、あるいは造影効果の変化を示す症例が存在する。また、化学療法により、腫瘍内に壊死などが生じ、腫瘍内の造影効果に不均一性が生じ、判定を難しくしている点などがあげられる。 これらの課題を解決するために、新たな画像評価法を導入する予定である。具体的には、造影ダイナミックCTにおける時相間の造影効果の差分を求め、腫瘍全体の造影効果の変化をヒートマップとして表示する方法を考案した。また、腫瘍内の画像特徴量を求め、ラジオミクスの手法を用いて深層学習法により、観察者の主観を排除した客観性を伴った画像解析を目指す予定である。 以上の画像評価の課題を解決した後、時計遺伝子に関連した分子生物学的解析に進む予定である。
|