肺がんの組織学的な腫瘍内不均一性の定量化とその生物学的・臨床的意義の解析

• 研究課題/領域番号: 23K14494
• 研究種目: 若手研究
• 配分区分: 基金
• 審査区分: 小区分49020:人体病理学関連
• 研究機関: 国立研究開発法人国立がん研究センター
• 研究代表者: 滝 哲郎 国立研究開発法人国立がん研究センター, 東病院, 医員 (30905211)
• 研究期間 (年度): 2023-04-01 – 2028-03-31
• 研究課題ステータス: 交付 (2023年度)
• 配分額: 4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円); 2027年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円); 2026年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円); 2025年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円); 2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円); 2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
• キーワード: 腫瘍内不均一性 / 肺がん / 病理 / 画像解析

研究開始時の研究の概要

ゲノムレベル・トランスクリプトームレベルでの解析により、腫瘍内不均一性が癌の進展・治療耐性など癌の生物像に大きく関わるとともに、患者の転帰に非常に大きな影響を及ぼすことがわかっている。一方で、病理学の分野において癌が組織形態学的にも不均一であることはよく知られているものの、組織学的な癌の腫瘍内不均一性とゲノムレベルやトランスクリプトームの解析結果との比較はなされておらず、その臨床的意義もほとんど検討されていない。我々は、特に肺癌において、癌の病理組織画像の不均一性を数理モデルを用いて定量化し、その生物学的意義および臨床的意義を解析する。

研究実績の概要

他科・他分野の知見を取り入れることで、主に免疫染色標本を元に、がん組織標本上でのタンパク質の発現の空間的分布を数理学的に定量化する枠組みをいくつか作成した。その一つを用いて、腫瘍免疫の制御に重要な働きを有するタンパク質PD-L1の発現の不均一性が非小細胞肺がんの手術後の再発、腫瘍死に関連することを示し、結果を論文化することができた。PD-L1発現の腫瘍内不均一性は肺がんの組織型や組織学的グレード、遺伝子異常との有意な関連があり、また、腫瘍再発・腫瘍死を予測する独立した予後不良因子であることが判明した。これまでにPD-L1の発現が同一腫瘍内であっても不均一であることは病理医にはよく知られており、免疫チェックポイント阻害薬の効果予測指標である腫瘍全体でのPD-L1の陽性腫瘍細胞の割合(PD-L1 TPS)を評価する上でのいわば厄介者であった。申請者はPD-L1の不均一な発現を逆に利用する形でその定量化を試み、以上の結果を得た。肺がん組織切片からタンパク質の腫瘍内不均一性それ自体を定量化しかつその臨床的意義を明らかにした報告はなく、その意味で、既存の病理学的解析とは異なる視点でがん組織をみる枠組みを提案できたと考えている。

また、現在はがん組織における腫瘍胞巣と間質の空間的分布とその臨床的な意義を解析しており、論文投稿中の状態である。その中でも、病期や既存の病理学的指標とは独立して肺がん手術後の腫瘍再発や患者予後に影響する因子を見出している。

現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

当初計画していた、免疫染色標本を元にがん組織上のタンパク質の発現の空間的分布を数理学的に解析する枠組みを幾つか作ることができ、それを用いた検討が形になりつつある状況である。

今後の研究の推進方策

来年度以降は、より複雑で詳細ながん組織の解析の枠組みを作る計画である。具体的には、複数の免疫染色標本から得られたタンパク質発現の分布の重ね合わせを行う。また、他種の染色標本にも人工知能や画像解析ソフトウェアを用いた検討を広げていく計画である。

研究成果

• [雑誌論文] グロムス腫瘍内に認めた血管内大細胞型B細胞リンパ腫（IVLBCL）の1例 (2024)
  • 著者名/発表者名: 髙橋 秀悟, 滝 哲郎, 多根 健太, 小池 悠太郎, 村田 翔平, 三好 智裕, 鮫島 譲司, 青景 圭樹, 石井 源一郎, 坪井 正博, 元井 紀子
  • 雑誌名: 肺癌 巻: 64 号: 1 ページ: 55-56
  • DOI: 10.2482/haigan.64.55
  • ISSN: 0386-9628, 1348-9992
  • 年月日: 2024-02-20
• [雑誌論文] Extracting interpretable features for pathologists using weakly supervised learning to predict p16 expression in oropharyngeal cancer (2024)
  • 著者名/発表者名: Masahiro Adachi,Tetsuro Taki,Naoya Sakamoto,Motohiro Kojima,Akihiko Hirao, Kazuto Matsuura, Ryuichi Hayashi, Keiji Tabuchi, Shumpei Ishikawa, Genichiro Ishii, Shingo Sakashita
  • 雑誌名: Scientific Reports 巻: 14(1) 号: 1 ページ: 4506-4506
  • DOI: 10.1038/s41598-024-55288-y
  • 査読あり / オープンアクセス
• [雑誌論文] Spatial intratumor heterogeneity of programmed death-ligand 1 expression predicts poor prognosis in resected non small cell lung cancer (2024)
  • 著者名/発表者名: Yusuke Nagasaki, Tetsuro Taki, Kotaro Nomura, Kenta Tane Tomohiro Miyoshi, Joji Samejima Keiju Aokage, Seiyu Jeong-Yoo Ohtani-Kim, Motohiro Kojima, Shingo Sakashita, Naoya Sakamoto, Shumpei Ishikawa, Kenji Suzuki, Masahiro Tsuboi, Genichiro Ishii
  • 雑誌名: Journal of the National Cancer Institute 巻: in press 号: 7 ページ: 1158-1168
  • DOI: 10.1093/jnci/djae053
  • 査読あり
• [雑誌論文] Prognostic impact and gene expression analysis of peri-tumoral alveolar macrophage in resected lung adenocarcinoma (2023)
  • 著者名/発表者名: Yosuke Kagawa,Tokiko Nakai, Tetsuro Taki, Hiroko Hashimoto,Yu Tanaka,Tetsuya Sakai,Yuji Shibata,Hiroki Izumi,Kaname Nosaki,Hibiki Udagawa,Yoshitaka Zenke, Shingo Matsumoto,Kiyotaka Yoh,Saori Miyazaki,Reiko Watanabe,Motohiro Kojima,Shingo Sakashita,Naoya Sakamoto,Masahiro Tsuboi,Koichi Goto,Genichiro Ishii
  • 雑誌名: Cancer Science 巻: 114(8) 号: 8 ページ: 3423-3432
  • DOI: 10.1111/cas.15848
  • 査読あり
• [雑誌論文] Efficacy of Preoperative Biopsy in Predicting the Newly Proposed Histologic Grade of Resected Lung Adenocarcinoma (2023)
  • 著者名/発表者名: Ohtani-Kim SJ, Taki T*, Tane K, Miyoshi T, Samejima J, Aokage K, Nagasaki Y, Kojima M, Sakashita S, Watanabe R, Sakamoto N, Goto K, Tsuboi M, Ishii G.
  • 雑誌名: Modern Pathology 巻: 36(9) 号: 9 ページ: 100209-100209
  • DOI: 10.1016/j.modpat.2023.100209
  • 査読あり
• [雑誌論文] Clinicopathological features and prognostic impact of dirty necrosis in metastatic lung cancers from the colon and rectum (2022)
  • 著者名/発表者名: Konishi Yasuhito、Taki Tetsuro、Nakai Tokiko、Kuroe Takashi、Morisue Ryo、Miyoshi Tomohiro、Tane Kenta、Samejima Joji、Aokage Keiju、Miyazaki Saori、Sakamoto Naoya、Sakashita Shingo、Watanabe Reiko、Kojima Motohiro、Suzuki Kenji、Tsuboi Masahiro、Ishii Genichiro
  • 雑誌名: Cancer Science 巻: 114 号: 5 ページ: 2169-2177
  • DOI: 10.1111/cas.15647
  • 査読あり
• [学会発表] 肺癌組織における腫瘍細胞・間質の空間的分布とその臨床病理学的意義 (2024)
  • 著者名/発表者名: 滝 哲郎, 小池 悠太郎, 坂下 信悟, 坂本 直也, 小嶋 基寛, 足立 将大, 坪井 正博, 石井 源一郎
  • 学会等名: 第113回日本病理学会総会
• [学会発表] 肺扁平上皮癌及び胸腺腫切除時に縦隔内リンパ節に腺癌を認めた一例 (2024)
  • 著者名/発表者名: 大坪 莞爾, 滝 哲郎, 多根 健太, 小池 悠太郎, 多田 周, 三好 智裕, 鮫島 譲司, 青景 圭樹, 石井 源一郎, 坪井 正博
  • 学会等名: 第 198 回 日本肺癌学会関東支部学術集会
• [学会発表] 画像上, 原発性肺癌との鑑別が困難であった肺寄生虫症の1切除例 (2023)
  • 著者名/発表者名: 土田舜太, 鮫島譲司, 滝哲郎, 多田周, 小池悠太郎, 三好智裕, 多根健太, 青景圭樹, 石井源一郎, 坪井正博
  • 学会等名: 第 197 回 日本肺癌学会関東支部学術集会