研究課題
若手研究
中南米で流行するシャーガス病の原因寄生虫Trypanosoma cruziは、宿主防御反応を回避することで生き延びているが、その回避機構の詳細は未だ解明されていない。申請者は宿主病原体排除機構の一つ「オートファジー」に焦点をあて、これまでに原虫感染細胞において、宿主オートリソソーム形成が抑制されていることを明らかにした。そして、オートリソソーム形成に関わるSNARE 複合体との相互作用因子を探索した結果、いくつかの原虫側因子を同定した。これらの機能を解明するために、ノックアウト原虫を樹立し、in vitro、in vivo の実験系を用いて解析することで、病態形成に対する影響を評価する。
Trypanosoma cruzi (T. cruzi) は中南米で流行するシャーガス病の原因寄生虫であり、宿主防御反応を回避することで生き延びているが、その回避機構の詳細は明らかにされていない。宿主病原体排除機構の一つ「オートファジー」に焦点をあて、これまでに原虫感染細胞において、宿主オートリソソーム形成が抑制されていることを明らかにし、報告した。その後、オートリソソーム形成に関わるSNARE 複合体との相互作用因子を探索した結果、いくつかの原虫側因子を同定した。本研究では、同定された因子の中でも液胞輸送に係るVPS (vacuolar protein sorting) タンパク質に着目し、研究を進めた。今年度は原虫感染細胞内における、T. cruzi Vps16 (TcVps16) の局在を調べるために、外注で作製したTc Vps16 抗体を用いて免疫蛍光染色を行い、共焦点顕微鏡により観察を行った。その結果、感染9時間後の宿主細胞内に存在する無鞭毛期虫体(amastigote)の細胞質内において、Tc VPS16 は点状に偏りなく存在していることが明らかになった。また、同時に市販のhuman Vps16 (hVps16) 抗体を用いて、原虫との交差性の確認した結果、hVPS16抗体では原虫は染まらないことを確認した。一方、非感染細胞質内のhVPS16 は検出できなかった。さらに、ウエスタンブロット法を用いて、非感染HeLa 細胞ライセート中のhVPS16タンパク質発現量を調べたが、バンドは検出されなかった。これらの結果から、宿主細胞内のhVPS16 タンパク質発現量が低く、現状では宿主と原虫それぞれのVps16 の細胞内局在を同時に捉えることが困難であるため、hVps16抗体の再検討及び、tag付きhVps16 強制発現細胞の樹立が必要であると考えられた。
3: やや遅れている
上述の実験に時間を要し、当初の予定である、SNARE 複合体 とTcVPS16 の結合部位を調べるためのFRET の系の構築や、変異型TcVps16 リコンビナントタンパク質の作製ができず、両者の結合部位の解明まで至らなかったため、やや遅れていると判断した。
令和6年度は、SNARE 複合体とTcVps16 が感染細胞内で結合しているかどうか調べるため、TcVPS16 抗体と原虫感染細胞ライセートを用いた免疫沈降法を行い、ウエスタンブロット法で各SNARE 複合体のバンドが見られるか検証する。その後、宿主細胞内における結合の可視化を目指し、FRET あるいは近位依存性ビオチン化酵素(AirID)のシステムを構築する。また、蛍光抗体法で観察できなかったhVPS16 の強制発現細胞を作製する。それと同時に基礎的な情報を得るために、感染細胞におけるhVPS16 遺伝子発現量を経時的に追う予定である。
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CHEMICAL & PHARMACEUTICAL BULLETIN
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