研究課題/領域番号 |
23K14516
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分49050:細菌学関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
横山 文秋 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 特別研究員 (90962647)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
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キーワード | 細菌増殖ダイナミクス / 表現型ゆらぎ / 薬剤耐性細菌 / Organ-on-chip / マイクロ流体デバイス |
研究開始時の研究の概要 |
同一遺伝子・同一環境下の細胞集団も表現型不均一性を有し、このゆらぎに起因する細菌の増殖様式を解明するには一細胞レベルでの研究が必須である。一細胞レベルでの細菌生育の研究は、主にガラス基板・寒天培地・培養細胞層上での顕微鏡観察によって行われてきた。一方で、ヒト体内において細菌がどのように増殖し、時に薬剤耐性を示すのか、それを解明するには「より生体内に近い条件での細菌一細胞の時空間的観察」が必要である。そこで本研究では、マイクロスケールの流路を作製する微小流体デバイス技術により模倣血管を構築し、流れや宿主細胞由来の表面特性がある生体模倣環境において細菌生育の時空間的変遷を一細胞レベルで観察する。
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研究実績の概要 |
致死量の抗生物質を添加しても一部の細菌細胞が生き残る現象が報告されている。この現象がヒト体内での病原性細菌の生存を許し、治療遅延などの問題を引き起こしている。生体内で細菌がどのように生育し、集団を構成し、致死的な環境においても生存するのかを調べるために、ヒト組織模倣環境における細菌の一細胞生育を観察する研究を進めている。特に、ヒト血管内の細菌生育に着目し、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)と大腸菌をそれぞれ宿主細胞と細菌細胞のモデルとしている。本年度は、この宿主細胞上での細菌細胞の定着と生育を一細胞レベルで観察した。宿主細胞の上でも細菌は定着し、宿主細胞用の培地環境でも生育可能であることを確認した。さらに、この研究をよりヒト体内に近い環境で行うために、マイクロ流体デバイス上に模倣組織や器官を構築する技術を用いることを計画している。ヒト模倣血管を作製する技術を国内共同研究によって修得し、自身の所属研究室でも同じ模倣組織デバイスを作製できる環境を構築しているところである。来年度は、宿主細胞での一細胞観察を独立した複数の実験系で行い、得られたデータを定量・統計解析する。その結果を、従来的なガラス基板系で得られた結果と比較する。ガラス基板系と宿主細胞系では、細菌が接着する表面の化学的・物理的特性が異なり、これに対する細菌の応答の差異が生体内で致死量抗生物質にも細菌が生存することに寄与しているのではないかと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画した通り、本年度は模倣血管を構成する宿主細胞上での細菌細胞を一細胞レベルで観察することに成功した。宿主細胞上、宿主細胞用の培地環境下においても大腸菌が生育していることを確認した。また、宿主細胞の移動とともに細菌細胞も移動していることから、細菌細胞が宿主細胞に接着していると考えられた。この細菌細胞の接着頻度は従来のガラス基板上の方が宿主細胞上よりも好まれるようで、ガラス基板上により多くの細胞が見られた。このように従来のガラス基板系と宿主細胞系で細菌挙動にすでに差異が見られている。当初予想していたこのような接着や生育の差異が、致死量付近の抗生物質に対する応答や細胞の生存に影響を与えると考えている。最近の培養環境をヒト体内により近づけるために模倣血管上での細菌一細胞観察を計画している。そのためにマイクロ流体デバイスを用いた模倣血管構築技術を、国内共同研究を通して本年度中に身につけた。現在はこの模倣血管デバイスを自身の所属する研究室で構築できるように準備を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、模倣血管を構成する HUVEC 上で細菌一細胞を観察する系を構築した。この一細胞生育を定量・統計的解析するために来年度は複数の独立した実験を行う。得られた一細胞生育画像を解析、細菌細胞の形態情報(長さ、幅など)や生育、細胞配向といった情報を抽出する。これらの情報を、従来のガラス基板系で得られたものと比較し、両者の差異を明らかにする。特に細胞配向に関して、細胞集団内の特異的な細胞配向パターンの領域において細胞外マトリクス遺伝子の発現が誘導される結果を別の研究で得ている。この結果は従来的なガラス基板系で得られた。宿主細胞上や模倣組織上の細胞集団内にも、このような特異的な細胞配向パターンやそれによる不均一な遺伝子発現パターンが生じるのか調べる。細胞外マトリクスは細菌細胞集団が用いる防御壁として、細胞外環境の変化から細胞を守る役割がある。このマトリクスの発現パターンが宿主内での細菌の抗生物質耐性に寄与するのではないかと考えている。また、本年度修得した模倣血管構築技術を活かし、マイクロ流体デバイス上に構築した模倣血管内において細菌がどのように生育するか一細胞レベルで観察する。
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